disc review揺れる真夏の蜃気楼を写す、涼やかな逃げ水

tomohiro

natsunomujinaナツノムジナ

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うだるような暑さの日が続く季節になった。セミの鳴き声は生活音の一つとなり僕たちの暮らしに馴染み、存在を訴えかけながらも、とても透明だ。アスファルトを走れば、遠くには水たまりが揺らめく。近寄ろうとも、決して届かず、しかし、僕らに手招きする。

 

蜃気楼立つ蒸し暑い夏を、水族館で厚いガラスを通して眺めるような、真夏なのに涼やかなインディーオルタナを歌う、ナツノムジナの5曲入りEP。常夏の沖縄から東京に拠点を移し、活動をする彼らの音楽は、まさしく”ナツノムジナ”。真夏さながらの温度感、空気感を漂わせ、じわりと汗を誘うような、うだつの上がらない歌声は人を化かすムジナのようで、どこか捉えどころがなく、するすると指の隙間を抜ける。そこに重なる遠くで鳴る雷鳴のような、空間系のエフェクトを生かした楽器陣の演奏は、その正体のない温度と湿度感を、氷を一枚隔てて見ているような涼やかなものへとまとめあげている。

歌詞にも同様の仕掛けが施されており、そこに描かれる風景は確かに夏を想起させる熱を持っているのだが、すっきりとした文体と語感、小気味の良い言葉選びのセンスによってまとめあげられていて、そこがとても理知的で、質の良い小説を読んだ時と同じ清涼感を感じさせる。刻々と曲中に映し出される情景は、何気ない日常から、金魚すくいのようにキラキラ光る一瞬をすくい上げる。

 

以前、ここで紹介したdeidの、初夏の空のような突き抜ける爽快感とは趣を異にする、湿った夏の匂いは、お互いを噛み締めながら聞き比べることで、より一層、僕らの夏を鮮やかに彩ってくれることだろう。

音楽と一緒に、夏に化かされに行こう。

 

購入はライブ会場、彼らのホームページから

 

 

WRITER

tomohiro

エモを中心に枝葉を伸ばして聴いています。アナログな人間でありたいと思っています。野菜がたくさんのったラーメンが好きです。

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