disc review見知らぬ夜の街、ぽつりと佇む水銀灯

tomohiro

夜遊びのセンス百長

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名古屋が誇る万薬バンド、百長がついに全国へと放った初の流通音源。2010年の結成から、3枚のシングル、2枚のミニアルバム、1枚のEPと多くの音源を自主制作により世に送り出してきた彼ら。ようやくたどり着いた全国流通には万感の思いもあるだろう。

そんなこのアルバム、”夜遊びのセンス”には、百長ならではの、百長でしかない、「なんだか気持ち悪い」が気持ちいい不思議な魅力を持った楽曲が詰め込まれている。シンプルながらも面の立ったドラムとベース、ジャジーな雰囲気を漂わせる妖しいギター、味を内包したスルメ的ボーカルとメロディワーク、さらには掴み所の無くなんだか懐かしい歌詞は最小限のアンサンブルと音数で成り立つ最大限の隙のなさを発揮し、それに魅了される人間はあとを絶たない。

どのバンドに似ているか、という話は野暮ではあるが、サニーデイ・サービスのような落ち着いた”いい歌”が好きな人や、全く用いる手法や温度感は異なるが、椿屋四重奏の艶やかさを好む人間にも受け入れられる作品だと思う。

 

アルバム収録曲の中ではかなり昔から演奏される#1 “夜行”、#5 “くろいよ”は初期の百長のスタイルを今の百長へと伝える。”夜行”のサビに至った時の快感や、”くろいよ”のもう一声伸びそうで伸びない展開のいじらしさは、活動初期の頃での完成度の高さ、確立されたオリジナリティをうかがわせる。夜の寂れた歓楽街に点在する赤提灯のような妖しさを秘めたイントロが聞こえてこれば、それは”誰も知らない”歌だ。そのまま夜の街を歩いてたどり着いた場末のバーに流れる極上のウェットな楽曲#4 “蜜”。また、MVにもなっている#7 “Tobari”は聴く人それぞれの昔、ノスタルジックな郷愁を誘い、鼻がツーンとしてくる感覚に襲われる。そしてアルバムを締めくくる、ハイテンポでボーカルの伸びの良さを存分に味わえる#8 “灯り”、#9 “TOKYOCITY”も百長の持ち合わせる別の一面をのぞかせる。

また、時折楽曲に挟まれるギターソロが絶妙に渋くてかっこいいところも聴きどころのひとつだ。

 

このアルバム一枚に今の百長の持ちうるすべてが詰まっていると感じられた一枚だった。このアルバムが、より広く、多くの人たちの耳に届き、よりたくさんの人の前で歌う百長が見られる日が来ることが楽しみだ。

 

そう、まさにその時、恋に落ちるのだ!

 

 

 

WRITER

tomohiro

エモを中心に枝葉を伸ばして聴いています。アナログな人間でありたいと思っています。野菜がたくさんのったラーメンが好きです。

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