disc review轟音、緊迫、衝動、解放

shijun

ワールドイズユアーズMASS OF THE FERMENTING DREGS

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日本のガールズオルタナバンド、MASS OF THE FERMENTING DREGSの2ndミニアルバム。NUMBER GIRLが日本のオルタナシーンに与えた影響は大きいが、その中でも特にNUMBER GIRLの影響を大きく感じるバンドの一つだと思う。破壊的でありながら幸福感すら感じさせる轟音ギターに、物量で押し流してくるような爆音ドラム、そしてエッジの聴いたベース。プロデューサーにex.NUMBER GIRLの中尾憲太郎を迎えているのも、これ以上は無いと言うほど完璧な布陣である。ボーカルは決して上手くはないものの、声質も相まって爆音の中でいい清涼剤に成っているか。

#1「このスピードの先へ」からいきなり爆音で疾走。そこに乗る間延びしたようなメロディがまた独特のカタルシスと言うか、このバンドの一筋縄では行かないところでもある。ポジティブな雰囲気のコードを使って疾走していながら爽快感とはまた違ったエモーションを与えてくれるのだ。随所のキメも爽快。#2「青い、濃い、橙色の日」ではまるでギターかのような和音ベースが曲を引っ張り、スリーピースでありながら圧倒的な熱量で攻め込んでくる。序盤は明るくも暗くもなりきらず独特の粘っこさで進行していく楽曲だが、3分を超えたあたりでスッキリと分かりやすい轟音ギターが登場し、Vo.宮本菜津子もエモーショナルに吠え出す。絶妙な緩急である。#3「かくいうもの」ではかなり鋭い切れ味のギターが登場し、怪しげな緊迫感を漂わす。アルバム中でもNUMBER GIRLの影響を特に色濃く感じる一曲か。#4「She is inside, He is outside」は前曲の雰囲気を受け継いだかのような緊迫感あるテンポに、危機感をあおるようなAメロから、気を狂わせる様な崩壊感のある「Ah~」のコーラス、そして単調且つソリッドかつ危ないギターソロへ――一時も安心させることない曲調は常に転がり続け、そのたびに脳内麻薬を分泌してくる。#5「なんなん」ではアルペジオと歌という組み合わせで始まる、このアルバムとしては珍しく緩急の付け方が「緊張」と「解放」ではなく、「静」と「動」とで表現された楽曲。嘆くように歌われるサビはエモーショナルを振りまき過ぎである。表題曲#6「ワールドイズユアーズ」はメロディも進行もポップでポジティブな雰囲気で、ストレートな轟音ポップナンバーとして仕上がっている。ビートは性急気味であり独特の緊張感は残っているか。サビ後の突き抜ける様な爽快感に溢れたギターにも注目。

怪しげな楽曲からポップな楽曲まで様々であるが、「轟音」と「緊迫感」という二つの軸を持っており、しっかりと筋の通った一枚になっている。また一部では「破壊的」とも称される独特のメロディセンスも、ある種の掴みどころの無さを孕みつつもエモーショナルであり一つの武器として成立している。女性ボーカル愛好家も轟音オルタナ愛好家も、ぜひ手を伸ばして頂きたい一枚である。彼女達はその後メジャーデビューを経て、現在はバンドとしては休止しているものの、Vo.宮本菜津子はソロでも活動中である。

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shijun

ポップな曲と泣ける曲は正義です。female vocalが特に好きです。たまに音楽系のNAVERまとめを作ってます。なんでも食べます。

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