disc reviewinterview cllctv. meets 猫を堕ろす

tomohiro

音を作りあげていく中に自分のスタイルを持つことそのものが”心の免罪符”になっている


 

Tomohiro:さて、バンドのこれまでの話をしてきて、まさに今現在に差し掛かるんだけど今回、音源をリリースしてどうだった。反響あった?

伊藤:あったと思うよ。そんなにすぐこういうことがあった、っていうのは思い浮かばないけど、たくさんの人が聞いてくれてる感じは。

Shijun:こちらが今まで一方的に知っていた人たちが聞いてくれたのは結構嬉しかったな。パソコン音楽クラブ、in the blue shirt、カバを殴る仕事…。

伊藤:うん、実際どう思ってくれたかは別として、聞いてくれたっていう事実が結構嬉しかったよね。それに関してはサブスクで出した恩恵がすごく大きいと思ってる。

Tomohiro:今回、サブスク配信の『サウンド・リクルーティング ONLINE』では、色々なアーティストのリミックスが入ってるってのが大きな特徴だったんだけど、これをサブスクでやった狙いっていうのはどこにあったんだろう。
フィジカルに特典つけるからフィジカル買ってねみたいなのはよくあると思うけど。

伊藤:もはや最近ってサブスクが音楽好きの中では音楽体験の中心になってるな〜って思ってて。俺も今家にCDを聴ける環境がなくて、サブスクで聴いているし、サブスクに主軸を置いていく形は不自然じゃないかなって思ったのかもしれない。

Tomohiro:そもそもリミックス文化って割とネットの発達とともにオンライン上で活発化してきたようなイメージもあるんだよね。元々あったとはいえ、それがカジュアルに行われてきた背景にはネットがあると言うか。

伊藤:あー、そこらへんはあんまり意識してなかったけど、そう感じる人は結構いそうかも。そういうのも含めて、オンラインにはリミックスをがっつり収録した、という感じかな。

Tomohiro:今回のリミックスにはいろんな立場のプレイヤー、コンポーザーが参加してくれているけど、参加している人たちの紹介と、何故この人にこの曲を頼んだ、みたいな話を聞かせてほしいな。

伊藤:そうだねー……。全員しっかり紹介したいんだけど、結構情報量がありそうだから、断腸の思いで二人だけ紹介させてもらうね。

・ Sound Recruiting (周 Remix)

これは神様クラブってユニットをやってる周くんに頼んだ。神様クラブは俺が上京する前に聞いてて、本当にすごいなと思ってて、上京後には色々仲良くさせてもらってる。
原曲が割とリフレイン多めな展開なので、バキバキに緻密な音作りする周くんがどうやってくるかな〜 って想像してこの曲やってもらった。
Dirty Projectors初めて聞いた時に、こんなおもしろくて緻密でバカみたいな音作りできる人すげえって思ったけど、まんまその時の気持ちになったな。
・ Green Car / Like House (davun Remix)

davun (俺は蛇口って呼んでる)は、多分人づてで仲良くなった同い年の作曲家なのだけど、彼はすごく「丁寧な暮らし」ってやつをやりつつも捻くれてるのね。
でも音楽センスは正直敵わんなぁと思ってて。今回リミックス頼んだ方々の中で一番「技術」みたいなものがあるなって思ったから、このボーカル入ってなくてリミックスむずそうな曲を渡した…… 「ボーカル入ってるやつやらせてよ(笑)」ってしょっちゅう言われてたので、それはまた次の機会かな……(笑)

 

Tomohiro:なるほど。今回のリミックスには、猫を堕ろすのスタート地点だった名古屋から関西、そして今の活動拠点である東京に至るまで、様々な人が参加していて、まさにこれまでの猫を堕ろすが培ってきたものの集大成とも言えるかもしれないね。

伊藤:それは本当に。いい音楽を作る人にたくさん出会えたことは本当にこのバンドを続けてきたおかげだね。
こうして、今回はサブスクでの配信のためにたくさんの人の力を借りたんだけど、フィジカルでもそれは言えることで。
フィジカルで音楽を聴く、アートワークやブックレットに触れる、歌詞を読むという体験もすごく大切なものだと思っているから。

Tomohiro:今回のアルバム、デザインがすごくいいから、ブックレットとかすごく見応えあったな。

伊藤:そう。いいものを作ってもらったから、それを手にとってもらうための付加価値的にフィジカル版にだけ入れた曲もあるし。そもそも俺は歌詞を読みたいからCDを買う、みたいな買い方をしてきたタイプだったから、同じ体験ができるようにはしたかった。歌詞も多分フィジカルにしか載せないんじゃないかな。

Tomohiro:俺はいろんなCDのブックレットのスペシャルサンクスを見るのが結構好きだから、今回もほっこりした気持ちになったよ(笑)

伊藤:あれは昔からやってるからね。心当たりある人は是非読んでみてくれるといいかも。

Tomohiro:そもそも今回のアルバムは結構レコーディング期間は長かったイメージだけど。

Shijun:そうだね、期間としては長いと思う。

伊藤:最初は、とある実績ある方にお願いしてレコーディングしてもらってたんだけど、なかなか自分たちの思うところに落とし込めなくて。メンバー脱退したのも重なったりして、やめちゃったんだよね。

Tomohiro:なるほど、そういう経緯があったんだ。

伊藤:そのタイミングで少しアレンジなんかも考え直したりして。一番大きく変わったのは”Lover come back to me”のサビ裏のベースだったりする。これが結構難産で、何時間もリピートさせて朦朧としながらできたんだけど、あれは曲としての雰囲気を大きく変えることにもなったかな。

Tomohiro:ああ、あのフレーズそういう中で生まれてたんだね。俺はあのシンセベースっぽいフレージングとベースが裏メロを張ってる感じが素晴らしくYMOへのリスペクトを感じてグッと来た。

伊藤:それTwitterで言ってくれてたよね。そういう経緯があって変わったフレーズだったから、実はそこを褒めてくれたことはすごく嬉しかった。変えなかったら、響いてたはずの人に響かなかったと思うと、時間かけた甲斐はあったな、報われたなと思ったよ。

Shijun:あそこは俺もめちゃくちゃ練習した箇所だからね。泥酔しても弾けるように。

Tomohiro:で、レコーディングを仕切りなおしてからは、今こうしてインタビューしている、薫人の家で録った、って形になるんだよね。

伊藤:一部レコーディングしてもらってた時のデータを使ったりもしてるけど、ほとんどそうだね。

 

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Tomohiro:そうなると、ここにはアンプもないしライン録りのレコーディングだったのかな。

伊藤:ほとんどはね。でも冒頭に話したみたいな生感を出すために、どの曲も何かしらのパーツは実際の楽器を演奏したり、空気の振動をマイクで拾ったりすることで、いわゆる空気感は出すようにしてる。

Tomohiro:それってなかなか言語化しづらい部分ではあるよね。

伊藤:うん、それで、これは実はすごく大事なことなんだけど、そうやって音を作りあげていく中に自分のスタイルを持つことそのものが”心の免罪符”になっている。

Shijun:”心の免罪符”……。完全に納得した。

Tomohiro:音楽自体が作り手の内面の現れであると思うと、そういう「自分はこれをやっているから」っていう部分がすごく作り手の自信につながって、音楽自体を支えているんだろうね。

伊藤:他にも生っぽさで言うと、ボーカルトラックは必ず二本録って重ねるっていうのはやってる。今回もそれのせいでめちゃくちゃしんどかったけど、それでもやった。もはや性癖に近いね(笑)

Tomohiro:歌うたびに録れる波形が少し違うから、それが重なることで生まれる細かな揺れみたいな部分が厚みとか生っぽさにつながるって感じだよね。

伊藤:そう、そんな感じ。二本のトラックを5:5とかで鳴らすと結構ステレオ感出るんだけど、そういうのも結構好きだね。

Tomohiro:そういう細やかなこだわりを自分で作り上げてきたものがあったからこそ、最後はそこを自分でコントロールしないと納得できるモノができなかったというのはあったんだろうね。その結果、すごくしんどかったと思うけど、素晴らしいアルバムが出来上がったのではないかと思います。改めてリリースおめでとう!
最後に、今後の展望を聞かせてもらえたらなと。今回しっかりと時間をかけて出来上がった『サウンド・リクルーティング』を踏まえて。

伊藤:うん、これは本当に、引き続き曲を作ろう、ということに尽きるかな。またアルバム作ります。アルバムだけ出したい。ライブハウス出るといろんなトラブルが。

一同:(笑)

伊藤:ちょっと(笑)
そういうトラブルがあったりもするから、ライブをバンバンするみたいなスタイルは自分たちには向いてないと思うんだよね。音楽を作っていきたい、という気持ちがあるね。

Shijun:決してライブハウスに出たくないわけではないんだけど、そこが目的地のバンドではないかなって。

伊藤:今回、音楽としてしっかり勝負できるアルバムを出したと思ってるんだよね。
「生活、ガンバレー!」みたいな音楽は俺は書きたくないし書けないから。自分の思う音楽の形を出し続けていきたいなと。
俺は音楽を辞めてもやることがないから辞める必要はゼロという考え方があるんだよね。なんやかんや音楽との付き合いも長くて音楽との距離感も分かってるから。
腐らず、辛くなりすぎずやっていけるかなと思ってる。

Shijun:音楽との付き合い方って、やっぱり年を取ると変わってくると思ってて。これは仕事しながら音楽やってると付きまとってくる問題で、そこに対する自分の考えなんだけど、俺は「社会人になるから音楽辞める」っていうのもダサいとは思ってないよ。
それは選択としてそうあるのであれば別に何も悪いことではないと思うし。
そういう点を思いながらも、なんか続けているという点について今は考えていきたいと思っています。そういう点と点の話を最近は考えています。

ナツ:うわ〜いいねそれ。「点と点の話」。
まぁ、そんな感じでやっていけたら最高かなと思ってます!

Tomohiro:これちゃんとまとまってるのか?何はともあれ長い時間ありがとう!

WRITER

tomohiro

エモを中心に枝葉を伸ばして聴いています。アナログな人間でありたいと思っています。野菜がたくさんのったラーメンが好きです。

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