disc reviewmail interview cllctv. meets ophill

tomohiro

朝通勤中に私がチェックして夕方にSNSで意見交換。夜に藤井が作り直すというサイクルを6か月ほぼ毎日


ツジ:年初にリリースされた新譜についてお聞かせください。制作期間1年ということで、腰を据えての制作だったと思います。今作はどのようにして作られたのでしょうか?
まずは、今作の制作に至ったきっかけについて聞かせてください。

川上:前作の1st.epは納得のいくものではなかったので早く音源を作ろうと思っていました。実際の制作は2018年12月からスタートさせました。当初スタジオ録音も検討しましたが資金不足と時間をかけたほうが良いものが出来るだろうという思いから自分たちで行うことにしました。春には完成するだろうと思っていましたが、ミックスとマスタリングに思いのほか時間がかかり制作に1年かかってしまいました。急行待ち、3000mile、SSWは前作のep収録曲ですが納得がいく形にしたいという気持ちから再レコーディングを行うことにしました。

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ツジ:実は本作は完成したタイミングで僕らcllctv.にも送っていただき、先んじて聴かせていただいていたのですが、自主制作だと聞いた時にはかなり驚きました。それくらい、音の一つ一つに細やかな気配りがされていて、時間がかけられていることが実感できた音像だったためです。レコーディングスタジオでの録音はどうしても時間が限られてしまうので、環境が整っている一方で満足いくテイクを取るのが大変ですよね。そういった意味では、納得行くまで時間をかけられるDIYなやり方はophillに合っていたのかもしれませんね。とはいえ一年間となると、かなりのエネルギーが必要だったかと思います。レコーディングやマスタリングはどのようにして進められたんですか?

川上:レコーディングは藤井家の2階にある元子ども部屋comono studioで録音しました。ドラム録音からすべて自分たちで行いました。録音エンジニア、ミックス、マスタリングは藤井が行いました。ミックス~マスタリング期は夜に藤井が仮ミックスを作って私にデータを送り、朝通勤中に私がチェックして夕方にSNSで意見交換。夜に藤井が作り直すというサイクルを6か月ほぼ毎日行いました。私は最後の方で「完成するのだろうか」と恐怖に似た感じに襲われたんですけど(笑)藤井は最後まで楽しんでましたね。彼がアルバム作成のMVPです。

 

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ツジ:6か月…。通勤の合間とはいえかなりのハードさですね。先ほども少し話したのですが、今回の音源は色々な方向性から聴いてみても文句の出なさそうな、実に仕上げられた音だと感じていました。半年間磨き続ければそうなるのも納得ですね。

川上:6か月かけて調整をやりながらだんだんと自分たちが求める音を理解していった感じです。レコーディングに入る前に藤井とは参考にしたいアルバムの共有を行いました。イメージしていたのはデイヴ・フリッドマンのタルボックスロードスタジオみたいなドラムがバカスカ鳴ってるものでした。その後いろいろ聴き進めて最終的にドラムの生鳴り感と空気感を感じるgrandaddyのtasterを音の目標としました。
余談ですがam5には三岐鉄道の起動音を録音して使っています(笑)。

 

ツジ:今作、特にドラムの録り音には特徴があるように感じていていました。ここにこだわりがありそうだなと。作り込まれすぎていない程よいデッドさはまさに「生鳴り」で、それがDIYさを引き立てているようにも思え、実にハマっていると感じました。

川上:ドラムの鳴り方はこだわっていたので「生鳴り」を感じてもらえて嬉しいです。

ツジ:これは全く私的な話なのですが、comono=菰野や三岐鉄道などのワードは、僕の生まれ育った土地そのものなので、思わぬ親近感を抱いてしまいます。あの田んぼの中をゆったりと走る三岐鉄道から見える景色に想起されるam5の情景や、三岐と近鉄との接続である近鉄富田駅で待つ急行が”急行待ち”の風景なのだろうか、など色々と想像を巡らせる思いです。

川上:三岐鉄道いいですよね。藤井の家に行くために乗るのが楽しみでした。急行待ちのモデルは名鉄笠寺駅なんです。普通電車が急行を待つ時間をヒントに歌詞を書きました。

ツジ:名鉄でしたか!これはもうめちゃくちゃローカルな話ですね。(笑)この『通勤マスタリング』の6か月の集大成として、音源が出来上がったのでしょうか。

川上:実は通勤マスタリングが完成してgalaxy trainに提出した後に、sitaqのヤマダくんが彼らの出来たてアルバムを聴かせてくれました。その音のふくよかさとか豊かさに藤井と驚いて「これはあかん」となって(笑)急遽再マスタリングを行いました。それまでは割と音圧が高くて低音がもっと効いていたので、まろやかな音に整え直しました。マスタリングで聴きすぎて麻痺してた耳がsitaqでナチュラルに戻せました。出来上がったのを聴いて「これだ」と思えたのであの時聴かせてくれたsitaqに今でも感謝してます。

ツジ:sitaqは同じく名古屋で活動するインディーロックバンドとして、ライバル的な立ち位置にも思えますね。こうしてお互いに影響しあってより良いものが生まれていく様は、まさに「シーン」の在り方のように思えて、オルタナティブの本質を見る思いですね。
今作は主張しあいながらも一線を超えない各楽器のパワーバランスの絶妙さを感じるところだったのですが、ここにsitaqの音源が大きな影を落としていたとは。

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WRITER

tomohiro

エモを中心に枝葉を伸ばして聴いています。アナログな人間でありたいと思っています。野菜がたくさんのったラーメンが好きです。

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