disc review朗々たる刹那の感情と多段的変則音楽の交差

tomohiro

1st demoPrimacasata

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東京を拠点に活動する4人組の激情系、エモヴァイオレンス直下型ポストロックバンド、Primacasataの自主制作音源。ポストロックの湧水を慎重に汲み取りつつも、彼らの体内に脈々と流れるのは、まごう事なき激情の血であり、叙情的ながらもどこか陰のあるアルペジオワークには、killieやheaven in her armsなどの影響がダイレクトに垣間みえる。一方でポストハードコアライクなサウンドでありながらも、シャウトなど、ボーカルワークにおけるハードコア要素は最小限にとどめられており、手数も十分に楽曲を鮮やかに彩るドラムや、伸びやかで物憂げな歌声も特徴的だ。あくまでもカオティックハードコアにはならず、エモヴァイオレンスでもなく、クリーンでストイックなサウンドによる、熱量を落としたアンサンブルが、それゆえに、時折現れる胸を抉るシャウトと合わせて、より楽曲のヒリヒリとした緊張感を押し出してきており、見事だ。

 

”白線は途切れて、風の音が聞こえる”というフレーズとともに、溜め込んでいた熱量を放出するかのようにシャウトの絡む叙情的なサビへとなだれ込む#1 “体温”、イントロのアルペジオから思わず頷いてしまうほどの、激情系への傾倒を感じさせる#2 “それでも羊は戦う”、サビの歌の掛け合いがひたすらに胸を熱くする#3 “チルドレン”と、3曲とも結成一年での音源とは思えないほどの完成度と純度だ。シンプルに歌われているように思える歌の裏で鳴っているギターが実に美しく儚く、歌メロに気を取られがちだが是非聞き込んで欲しい。

 

歌メロ自体はとても馴染みやすいもので、the cabs(まさに!)など歌モノ残響系バンド好きにはもちろんクリティカルだろうし、聞いた上で、ポストハードコア要素に目が行くならば、Meet Me In St. Louis、Rescueなども次に聴くものとしてお勧めしたい。

どうやら先日のライブで音源は完売してしまったようで、今はbandcampでダイジェストが聴けるのみだが、次の音源の制作も仄めかされており、今後への期待が高まる。東京のsans visage、ghostlate、札幌のkiji、名古屋のheliostropeなど、各所で高まりつつある激情系に10年代のフィーリングが加わった新しい波とともに新しい音楽をリスナーへと広げて行ってほしい。

 

WRITER

tomohiro

エモを中心に枝葉を伸ばして聴いています。アナログな人間でありたいと思っています。野菜がたくさんのったラーメンが好きです。

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