disc reviewキャッチー&テクニカルなマスポップ入門の決定盤

tomohiro

Wot Gorilla? EPWot Gorilla?

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イギリスはハリファックスで結成された、4人組マスポップバンド。プログレ好きなら、そのバンド名からGenesisのアルバム、”Wind & Wuthering”の収録曲が思い浮かぶことかと思うが、どうやらバンド名の由来自体もそこから来ているようである。

まさに”マスポップ”としての典型とも言える、高度なテクニックを持ち合わせた各パートの織りなす、軽快な技巧派フレーズと変拍子を駆使した多展開、キャッチーでエネルギッシュな少年のような歌声と、日本人の耳にも馴染むメロディなど、このジャンルを語る上で押さえるべきポイントのすべてを押さえることのできる秀逸な作品だ。

 

マスポップというジャンルは非常に狭く限定的な物言いであり、代表的なバンドとしては、Colour(後のTangled Hairも含む)、Tubelord、テクニックに偏重していた頃のMaps & Atlasesなどが挙げられることかと思う。ここ最近の日本においても、Atrantis Airport宇宙コンビニQOOLANDのようにマスポップと呼べるサウンドを展開するバンドは増えてきている。こういった後進を生み出したマスポップというジャンル、現代に直近のムーブメントかと思えば、Colourの名盤”Anthology”がリリースされたのはこの作品と同じ2009年、TubelordもBig Scary Monstersからのデビューシングルは2008年と、6~7年前に集中している。今尚マスポップというジャンルを語る上で第一線に出てくるのがこれらのバンドであることを考えると、すでにそのスタイルはこの時期には完成されていたということになる。

こういった短期間のムーブメントによって盛り上がったマスポップというジャンルは一旦収束を迎え、今のTTNGに代表されるような、よりリラクゼーション的要素を強めたポストロック、エモフィーリングのバンドであったり、さらにはそこに再び、マスポップ以上にエネルギッシュなシャウト、男臭いボーカルを導入したGulfer、Stockadesのようなポストハードコアバンドへと血を継いだ。

 

Wot Gorilla?の作品の話へと戻す。

 

メロディックパンクやポップパンク色の強い、音圧、疾走感と繊細なアルペジオが交錯する#1 “We Go Way Back Like Spinal Cords and Car Seats”を先頭に据え、どっちを歌いながら弾いているのか分からないテクニカルフレーズが乱発する#2 “6 Double 5 3 2 1″、american football的リラクゼーショナルなイントロが印象的な#3 “Q W E R T Y”、美麗なディレイフレーズが楽曲をウインドチャイムのように彩る#4 “Cornelius”、最もマスポップ然とした完成度を見せる#5 “23”と、マスポップの入門盤、およびそこから派生していくにはうってつけの内容。bandcampでname your priceなのも手が出しやすいところ。

 

この作品以降もname your priceを中心に多数の作品をリリースしており、どれもクランチ寄りリラクゼーションサウンドでおすすめなのだが、昨年単発で発表された新曲が、完全にディストーションな歪みを使い、メカニカルなタッピングも駆使するポストハードコア、スクリーモに寄せた作品で驚いた。昨年10月に次の作品のためのレコーディングを行ったようなので、今後の動きにも注目したい。

 

彼らのbandcampはこちらから。

 

紹介した作品には収録されていないが、名曲。(とても音がいい)

 

空気感の変わった新曲。

WRITER

tomohiro

エモを中心に枝葉を伸ばして聴いています。アナログな人間でありたいと思っています。野菜がたくさんのったラーメンが好きです。

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