disc review静謐で暗澹たる、神話としての”樹海”

tomohiro

Black Sea Of Trees

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「○とは、ただの記号にあらず、球体的な音楽風景を描き出すために集まった我々を象徴するシンボルである。」

 

少々の意訳を含むが、彼らのbandcampからの引用だ。”Black Sea Of Trees”、黒き樹海とはすなわち日本における青木ヶ原樹海を指す。その場所の異質さと神秘性、悲劇性から、海外でも”Suicide Forest”として知られ、多くのバンドがその風景、世界観を描き出そうとした。ノルウェーのアンビエント、アシッドジャズアーティストとして知られるEivind Aarsetは”Jukai (Sea Of Trees)”という楽曲を制作しているし、そのまま、Black Sea Of Treesというバンドも存在する。前者は不穏かつ神秘性を重視したアンビエントであり、後者は悲劇性、叙情性を押し出したブラッケンドハードコアである。

そんな神秘的な場所、樹海を、彼らの”円環的な感覚”をもって5曲にして40分強の広大な物語として作り上げたのが、この作品である。静謐で重厚かつ久遠なその世界観は、彼らの思う”Jukai”の顕現であり、悲劇、神秘、叙情、暗澹と絶望的な救いが宿る。あくまでもアンビエント、ポストロックがその表面的音楽性であるが、その深層には確実に、激情的なハードコアの血流が流れており、単に無機質で彫像的でない、血の通った芸術性を内包する。そういった音楽性から、激情系ハードコアはもちろん、Alcestのようなポストブラック、シューゲブラックを好む人や、ドローン、さらにはRussian CirclesIf These Trees Could Talkのようなポストメタルのリスナーにもアプローチしてくる作品だと思う。

 

1曲単位で聴くというよりは、アルバムで聴く作品だ。神秘的で清らかな空気は少しずつ黒い霧をまとい始め、やがて深く暗い森へと誘い始める。繰り返される破壊的展開にいつしか、出口を忘れ樹海の奥深くへと迷いこむ。吹き荒れる嵐の中、その絶望は膨らみ始め、やがて喉から溢れかえった時に、それは悲劇的な絶叫として現れる。

日本という国に潜む樹海という闇を、海を越えた異国の地から紡ぎ、語る意欲作だ。静と動を深い霧の向こうで繰り返す40分ののち、最後に数分だけ現れる絶望的なスクリームを耳にした時、脳内に溢れ出る快楽物質に爪先から震え上がることまちがいない。部屋を暗くして、ヘッドホン、もしくは良質なスピーカーで大音量で聴いてほしい。

 

LP版(装丁が凝っていてかっこいい)はLongLegsLongArmsにて販売中。

bandcampからはname your priceにてダウンロード可能だ。

 

 

WRITER

tomohiro

エモを中心に枝葉を伸ばして聴いています。アナログな人間でありたいと思っています。野菜がたくさんのったラーメンが好きです。

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