disc review倒錯ポップネスライフアンソロジー

shijun

菅原達也菊地椋介佐伯香織渋谷悠さよなら、また今度ね

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都内を中心に活動していた4ピースバンド、「さよなら、また今度ね」の1stミニアルバム。バンド名、アルバム名、曲名どれを取っても良く言えば個性的な、悪く言えばふざけまくりの彼ら。公式HPのメニュー欄に何故かクックパッドへのリンクがあったり、変な動画を上げまくっていたりとそれ以外でもふざけた姿勢が見える。しかし、モーモールルギャバンや神聖かまってちゃん、打首獄門同好会など、一見変なバンドほど謎のポップセンスを持ち合わせていることが多いのは事実。彼らも例に漏れず独自のポップセンスを遺憾無く発揮しおり、5曲入りの短いアルバムながら非常に濃いアルバムに仕上がっている。

Pavementを彷彿とさせるヘロヘロながらどこか熱量とエモーショナルさを湛えたバンドサウンドに、下手くそで暖かみのある歌声、そして生活感とユーモアに彩られた耳に残る歌詞。いい意味での俗物感を振り撒きつつも、どこか飄々として掴み所の無い風もあり、その正体を暴こうとすればするほど知らぬ間にさよ今ワールドに連れ込まれてしまうのだ。

彼女と自分とで布団の中に小さな国を作ろうと提案する#1「in布団」。「ニトリ」「バイト」「コンドーム」などの饐えた生活感を醸しだす言葉達の中で、燦然と輝く「この布団を小さな国としよう」という非現実的提案に引っ張られ、非現実に巻き込まれたかと思ったらセックスを始める。その非現実と現実の間をふらふらと漂うような感覚は、まさしく布団の中で夢想と覚醒との間を行き来する感覚と同義とも言えるかもしれない。ノイジーなサウンドに乗せて踏切に「あの娘」に関する注文をつける#2「踏切チック」。踏切というこれまた俗な記号を用いながらも、踏切に願い事をするという非現実的体験を軸にしており、きな臭い現実の世界に少しだけ非現実の風穴が空いているような不思議な体験を楽しめる。#5「信号の奴」はその記号が踏切から信号に変わる。並列表現を用いて加速していく技法といい、エモーショナルで開放感と疾走感に溢れたコーラスワークといい、麻薬ばりの中毒性をこれでもかというほど煮詰めてこちらに投げかけてくれる。

残念ながら早くも活動休止に入ってしてしまった彼ら。メンバーもそれぞれが別の活動に向かいつつあるよ
うで、しばらくは活動再開も望めないとは思うが、いつかまた、彼らなりのニヒルさ、飄々さを見せてくれる日が来て欲しいものである。

 

(CD収録版とはアレンジが違います。)

WRITER

shijun

ポップな曲と泣ける曲は正義です。female vocalが特に好きです。たまに音楽系のNAVERまとめを作ってます。なんでも食べます。

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