disc review新緑の白樺並木と、頬を刺すまだ冷たい風の色

tomohiro

Corruptbufferins

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日本の極北、北海道の地に生まれた女性ボーカルを擁するオルタナ、エモバンドbufferinsの1stフルアルバム。同郷のCOWPERSにも通じるような、一本道直通な骨太のエモ、パンクスタイルに、Nahtと同じ流れを感じるメロディックなボーカルが絡む。また、絶妙に拙い英語で歌うボーカルが、本来の歌の透明感、上手さをほどよくバンドへと溶け込ませることに成功している。

逆に言えば、それゆえ、この後にリリースされた”Koboreochirumono”において全詞が日本語となってしまったことは、個人的にはエモ的要素を減衰させてしまったように感じられ、残念に思った。(”Koboreochirumono”においては、完全にボーカルの澄んだ歌声を全面へと押し出す形になっており、歌モノ的音像に寄せ過ぎているように感じた。)

 

澄んだウィスパーに近いボーカルスタイルと、それを包み込む轟音でひどく歪んだアンサンブルは、シューゲイザー的な雰囲気を彷彿とさせるが、あくまでも、それは形としてであり、シューゲイザーバンドと呼ぶことはできない。おそらく、彼らの根底にあるのはシューゲイズ的幻想繊細サウンドではなく、北海道の地において、90年代に異様に集中したbloodthirsty butcherseastern youthCOWPERSキウイロールなどに代表されるジャパニーズオルタナ、ハードコアパンクの息吹であり、それを至近距離で感じていたはずの彼らにも、そういったオルタナでナードな方法論が息づいているように思う。また、#1 “Green Green”で見せるようなエバーグリーンなアップチューンからはThe Get Up KidsMineralのような直撃90’sエモ、あるいはSaves The Dayのようなメロディックパンクの影響も垣間見える。正直に感想を言ってしまうと、まさに時代、土地が生んだというに相応しい、この年代、北海道という地でなければ成立しなかった、稀有なバンドだと思う。

 

エモとは少し趣を変えて、インディーロック、ギターポップ的なキュートさも感じる#2 “Happy Ice Cream”、#3 “S.S.U”も素晴らしいし、イントロからThe Appleseed Castさながらのクリーン→スローテンポ→テンポアップを繰り返す#5 “Pond”はエモ好きには必聴、落涙間違いなしの名曲だ。また優しげなクリーンギターのコード感がリラクゼーショナルな#8 “Rub You Corrupt”、ギターのノイジーな絡みがディスコード的な空気感を漂わせるナードチューン、#9 “Switch”も是非聞いてほしい。

バンドアンサンブルの”エモ”感もさながら、このバンドを唯一無二な存在へと押し上げたのは、透き通っていながらもおぼつかなさの抜けない女性ボーカルが居たことだろう。いそうでいなかった、日本のクリティカルな女性ボーカルエモバンド、bufferins。是非チェックしてみてほしい。スウェーデンのエバーグリーンメロディックエモ、Last Days Of Aprilとスプリットをリリースしていることも印象的で、北欧エモ方面へのアプローチも可能だったあたりもワールドワイドな良さがあったことの証だ。

 

 

 

WRITER

tomohiro

エモを中心に枝葉を伸ばして聴いています。アナログな人間でありたいと思っています。野菜がたくさんのったラーメンが好きです。

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