disc review異質を飲み込む都会のユルいポップアイコン

shijun

サイボーグ俺達HALCALI

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日本のヒップホップガールズデュオ、HALCALIの3rdアルバム。RIP SLYMERYO-ZDJ FUMIYAによるユニット、O.T.Fのプロデュースにより中学生でありながらメジャーデビューするという経緯を持つ彼女達。気負った感じの一切ないユルいラップスタイルはヒップホップシーンでも特異。かつてその力の抜けた雰囲気でJ-POPシーンに衝撃を与えたPUFFYに通ずる部分もあると言えるだろう。豪華な作詞作曲陣に依る多彩なサウンドと、シュールな物から等身大の女子を歌ったものまで多彩な歌詞も特徴。

 

まず豪華な参加アーティストに注目してみよう。何故かHALCALI本人より前にケンドーコバヤシのナレーションが入っている#1はBO GUMBOSDr.kyOnプロデュース。ホーンは東京スカパラダイスオーケストラのホーン隊である。THE HIGH-LOWS「日曜日の使者」がサンプリングされている#2はFantastic Plastic Machineが手掛けている。他にもVERBAL(m-fro)宇田丸(RHYMESTAR)ALI-KICK(Romancrew)などのヒップホップ畑のアーティストから、POLYSICSYOUR SONG IS GOODクボケンジ(メレンゲ)斉藤哲也(undercurrent)會田茂一RAM RIDERなど主戦場を別のところに置くアーティストまでさまざまである。BIKKE×高野寛が作詞という渋谷系を愛する人には唾涎ものの組み合わせもある。O.T.F作の曲ももちろんある。

 

それだけの多様な布陣を敷いただけあり、ヒップホップを軸にしつつもあらゆるジャンルを飲み込んだアルバムに仕上がっている。無骨なギターリフが印象的なほぼオルタナティブロックな#10「桃源郷」(會田茂一プロデュース)、POLYSICSのアルバムに入っていても違和感が無いニューウェーヴィーな#7「サイボーグ俺達」、同じくほぼユアソンテイストである陽気なカリプソサウンド#9「フェスでウィッス!」等はその極致と言えるだろう。#7ではHALCALI本人たちによる稚拙なギターソロが含まれていたり、#9では歌詞に「ユアソン」まで登場したりと少しお遊び的側面も含まれている。かと思えばVERBALプロデュースのクールなトラックでガッツリとヒップホップな#3「恋のブブブン」だったり、トラックやゲストの宇田丸だけでなく、HALCALIの二人までも都会的なアダルティさをプンプンと蒔き散らす#8「ドライバーズ・ライセンス」の様に本格的なヒップホップをプレイする曲もあり。とは言え歌詞は全てどこか緩かったりするのがまた彼女たちの魅力。

 

マニアックな音楽性にばかり走っていたわけではない。明るめのトーンながらどこか日本人的な切なさを感じさせるメロディアスな#6「LOOK」、洒落たキラキラサウンドが特徴的な#7「Tip Taps Tip」等、J-POPの王道をハルカリナイズしたような楽曲もある。これらはシングル曲かつタイアップも付いていたこともあり、歌詞も彼女たちの緩い雰囲気に合わせつつもお遊び的要素は少なめ。作編曲には数々のJ-POPを手掛けるクリエイターチーム、agehasprings所属の田中ユウスケを起用し、ミックスからしても他のアルバム曲とはどこか違った整然とした印象を受ける。マニアックな大人の遊び的楽曲で音楽ファンをニヤリとさせつつも、J-POPシーンをも見据えていたことが見て取れる。

 

楽曲ごとに目まぐるしく色々な顔を見せるこのアルバムだが、そういったコンセプトのアルバムは得てして散漫な印象に成ってしまいがちである。このアルバムがそう成っていないのは、HALCALIがポップアイコンとして充分な個を持っていたこと、そして周りのクリエイターたちが彼女たちの個性を評価し愛していたことに尽きるのではないだろうか。これだけバラバラな楽曲でありながら、全ての楽曲は都会的なユルさを持つ彼女たちのイメージを崩すどころか、より鮮明なものとして作り上げている。一つのポップアイコンであるHALCALIを用いた大人たちの遊びは、よりHALCALIのポップアイコン性を高めていたのである。もはや一つのコンセプトとして成立している”HALCALI”の中で、数々のジャンルはあくまでサブコンセプトなのだ。一つのアーティストが多彩なジャンルを飲み込むJ-POPのマジックが高レベルかつマニアックな分野で結実しているこのアルバム。まずは参加アーティスト目当てでもいいだろう、是非手に取ってみてほしい。

 

WRITER

shijun

ポップな曲と泣ける曲は正義です。female vocalが特に好きです。たまに音楽系のNAVERまとめを作ってます。なんでも食べます。

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