disc reviewいつも笑ってるあの子の、シニカルな人生哲学

shijun

明日からがんばるはこモーフ

release:

place:

東京都を中心に活動していたスリーピースガールズポップバンド、はこモーフのミニアルバム。いい意味でインディーズバンド然とした、どこか気の抜けた雰囲気を纏っており、そこが絶妙なポップさを生んでいる。平易でコミカルな題材な歌詞の中にもハッとさせるような着眼点があったり、シンプルなスリーピースギターロックながらも聴かせる要素が存分にあったりと、こっそりと仕掛けられたフックにいつの間にか引っかけられ引き込まれていく、そんなバンドだと思う。

30分という短い時間から哲学を広げていく#1「30分」。PVも作られているリードトラック#2「大きいかぶ」は一発で耳に残るメロディラインが秀逸で、ダンサブルなビートながらどんどん変わっていくリズムも癖になる。それだけの楽曲のテーマが大きいかぶ、というのがまた良い。途中で入る「どっこいしょー」の掛け声には思わず気が抜けてしまうことだろう。性急なビートで展開していく#3「誰かの歌」は一転エモーショナルで、Aメロの息も絶え絶えな「誰か」からサビの「嘘をついたのは僕だ」の連呼まで、聞き手の心に何かを突きさしてやろうという意気を凄まじく感じさせる。オールドロックンロール調のフレーズが印象的にはさみこまれる#5「もっとちょうだい」。サビメロにはやはりフックが聴いており侮れない。うねるベースも面白い。謎の寸劇から始まる#6「村に平和が戻ったよ」。村祭りの様なメロディのメインテーマも相まって思わず笑ってしまいそうになるが、「いつも通りはしばらく無理でした」等シニカルに突き刺さる様なワードも随所に含まれ、ボーカルも徐々にシリアスさを増していく。コミックソングと思わせて裏にメッセージ性を持たせるというのはポップソングの一つの手法ではあるが、やはりハッとさせられてしまうものである。#7「背中」はしっとりした曲調に騙されそうになるが目まぐるしく変わるリズムパターン、多発するキメとやはり凝っている。#8「手のなる方へ」はライブ映えしそうな楽し気な楽曲。サビの「ワッショイワッショイ」コールから「明日になったら見えるかしら」の美メロディの入れ替わりはABBA「Mama Mia」を彷彿とさせる虚の突き方である。#9「不器用賛歌」はカントリー風の軽快な曲調にメッセージ性の強い歌詞の乗った楽曲。

アルバムを通して聞いていただけると分かると思うが、彼女達のメロディラインには独特の癖がある。それだけでも十分なキャッチーさを持ちながら、コミカルとシリアスの間を縫うような歌詞も様々な角度から脳を突きさし、確信的に印象を残してくる。しかし、その全ては決して強烈では無く、それゆえ何度でも聴きたくなるような安心感、そして、ふとした瞬間にハッとさせられるような鮮度をもたらしてくれるのだと思う。飽きることなく聞ける一枚。是非手に取っていただきたい。

WRITER

shijun

ポップな曲と泣ける曲は正義です。female vocalが特に好きです。たまに音楽系のNAVERまとめを作ってます。なんでも食べます。

このライターの記事を読む