disc review陽沈むことあれど、上らぬ陽はあらず

tomohiro

dawnakutagawa

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山形に生まれたオルタナティヴ・ポストハードコアバンド、akutagawaの結成10年の総決算であった名盤。今年で活動は15年目を迎え、ゆっくりとした足取りながらも今年は”dawn”以来4年ぶりとなる音源であるmalegoatとのスプリット7″のリリースなど、久しぶり動きを見せたakutagawa。先ずは今年リリースの”聞こえないフリ、をしてただけ”を聴きながら読み進めてもらいたい。

 

この新曲では削ぎ落とされたシャープなアンサンブルの耳触りが良い彼らだが、これ以前の彼らは、グランジエモ、ポストハードコア、ディスコーダント等に影響を感じるドライブ感と焦燥感に満ち溢れた重厚なツインギター、屋台骨を支える一本気なベースに多装飾の叩きたがりのドラム、そして何より民話の世界から抜け出てきたような、土と垢にまみれ、あまりにも純粋な歌心と、山、大地、夜明け、世界を睥睨するような地平線を見据えた壮大な歌詞が胸に突き刺さるボーカルの5つによって構成された、孤高の音楽であった。

まさに彼らにしか表現できない、土着の世界観とでもいうべきか、フォークロア的香りを多分に含む楽曲はいずれも珠玉の一言で、一曲が短編映画1本に相当するレベルの濃密なストーリーを孕んでいる。その叙情性は、移り変わる自然に心を揺らされる我々日本人の心を体現するに等しく、まさに飲み込まれるといった表現が的確だ。また、”dawn”より以前の作品となる”君と僕”では、初期衝動溢れる激情的一面が前面に押し出されており、よりハードコアとしての色が強い。そういった意味で、今回レビューする”dawn”が、ジャンルや楽曲の性質としては最もバランスが良い位置に位置しており、とっつきやすさと奥の深さが両立された名盤であったと言える。

 

雑踏の中をたゆたう人々の有象無象の言葉の具現であるような#1 ” 東京”、「いつか朽ちて笑う日のために」という言葉が印象的で、後半の畳み掛けるような急展開が胸を締め付ける#2 “サヨナラ”、イントロの引き裂く多動的な展開からなだれ込むメロディラインとコーラスとともに歌い上げられるサビが凄まじい#3 “陽が沈む”、曲全体を通して流れ続ける悲痛で無慈悲な旋律が全くハッピーエンドではなく、心を揺さぶる#4 “ハッピーエンド”、そして幕間#5 “ラストダンス”を挟んで、11分に至るラストチューン、#6 “夜明け前”のイントロが始まった時、我々の脳内物質は分泌過多、処理しきれない感情の波に、いてもたってもいられなくなる手足は支離滅裂に動き出し思い思いの感情の暴発を為す。6曲で初めて一つとなった群像劇は確実にリスナーの僕らに大きな引っかき傷を残して去っていくだろう。

 

彼らでしか描けない一大叙事詩は、この一枚によって僕たちに投げかけれた。それが色付けされ、完成されるのは、僕たちの心の中でのこと。

 

中盤のポエトリーがあまりに素晴らしい

 

WRITER

tomohiro

エモを中心に枝葉を伸ばして聴いています。アナログな人間でありたいと思っています。野菜がたくさんのったラーメンが好きです。

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