disc reviewひび割れた舗装の上を征く、裸足の巡礼者へ

tomohiro

333quizkid

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齢40のいぶし銀のスリーピースバンド、quizkid。90’sエモを肌で感じてきた三人の男が、永きに渡って各々の精神の中で熟成させたエモーティブを絞り出すようにして演奏する楽曲には、まさに侘び寂びたる、噛みしめるような深みがにじむ。骨太で淡々と足跡をつけていくベースラインに、掠れた声で綴られる、ドライでシビアながらも軽い口当たりの歌詞が折り重なる骨格に、筋肉を、皮膚を、血管を付け足していくようにして爪弾かれる泣きの入った朧げな輪郭のギターフレーズとひょうふつと的を射抜くようにして配置されるタム、スネア、バスドラム。明快に盛り上がりのあるような曲展開の楽曲は少ないが、だからこそ、淡々と描写的に歌われる歌詞はより深さを増し、淡々とした中にも刻々と移り変わっていく展開にはじわりじわりと体温が上がっていく感覚を感じる。

 

歌詞に共通して存在する、原罪意識が根底に根付く西洋宗教的世界観とここ、日本の地の都市の生活とが入り乱れた空気感は、工場区の煙突の群れから立ち上る灰色の煙と青空、または、亀裂の入った路面から顔をのぞかせる緑の植物のようなビビッドな色彩の対比を、色褪せた映写機で映し出しているような、熱に浮かされた思考の流浪を起こさせる。#1 “飢餓に麻薬”は胸に花を、偽りに怒りをといった「A for B」のパターンを、少しずつ思考の枠を広げて積み重ねる前半部が美麗であり、特に夜に水をという表現はひんやりとしていて秀逸だ。#2 “フラスコ”は8分近い大曲にして、アルバム中の最高傑作といえるだろう。ボンネットに花が咲く、黄色っぽい国旗が舞うといった歌い出しから、戦火の過ぎ去った街の騒々しさと混沌と、そこに息づくしたたかな個人を描き出している、戦争を唄う歌だ。#4 “ゴルゴダ”や#6 “Left Alone”は抽象的な言葉をつなげながらも、時折象徴的な単語が挿入されることによって、ディティールを述べずに人を導く、啓示のような楽曲だ。

実に言葉選びの面白い歌詞を書くバンドだ、というのがこのバンドを聞いて思ったことだった。重々しく、文学的な言葉を選び、情景描写を行いながらも、時としてその流れを崩しそうで普通触れないような馴染みのある平易な情景が挿入されるバランス感は、なかなかに得難い感覚だった。硬質の情緒が溢れ出す、彼らの演奏や声が、こういった歌詞の味わいをさらに深くしているとも言えるだろう。

 

同じく東京のDIRTY SATELLITESとの、2015年リリースの10インチスプリットから。おそらく”シオンの娘”のシオンはエルサレムの歴史的地名から取っており、この楽曲にも西洋的宗教観が編みこまれていることがわかる。

WRITER

tomohiro

エモを中心に枝葉を伸ばして聴いています。アナログな人間でありたいと思っています。野菜がたくさんのったラーメンが好きです。

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