disc review無表情の六面体、或いは不定の怪異

tomohiro

ギロムとは何かGHILOM

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都市化した巨大な田舎と揶揄される街、名古屋。そこでひたひたと、自身の存在をビルの影、路地裏のネオン、寂れた街路樹へと紛れ込ませる4人組エクスペリメンタル・バンド、GHILOM。フリーでミニマルな出音を、曲というライン上に点で置いていくようにして生み出される、ギター、ベース、ドラムのアンサンブルは、隙のない緊迫感に満ちる。そしてその空気の中を残渣を残し、ふらふらと揺れるひとだまのようにして漂う、サチコの言葉、歌。緊迫に上書きされるさらなる緊迫によって、4人の出す音は、息もつけないような息苦しい沈黙を守るようにして、重々しく、我々の安価なイヤホンやスピーカーから溢れる。しかし、何故だろうか。聞けば聞くほどに、彼らの音楽には、どこか親しみやすさを覚えてしまうのだ。

日本には、「妖怪」という概念がある。僕は、畏怖の対象であった様々な自然現象、超常現象を、ひょうきんに描き、我々人間側の視点に取り込み、親しみやすさを混ぜ込むことで、超克しようという目論見から「妖怪」は生まれたのではないかと思っている。恐ろしくもひょうきんであり、かつての土と埃の匂いを残す「妖怪」は、今となっては、都市生活に押し狭められた僕らの精神に、一服の清涼剤として作用するような存在へと姿を変えていったように思う。彼らGHILOMは、まさに「妖怪」のように、恐ろしくも、どこか懐かしい感情を想起させるような、異質な音像を持ったバンドだと思う。

 

彼らの音楽は、例えばBjorkPortisheadに例えられる。確かに、Vo. サチコの声は、時に揺れ、湿っぽく響き、楽器隊の生み出す湿度の高いグルーヴも合わせてトリップホップの文脈で語るに値するとは思う。しかし、それだけで彼らの音楽は説明できないように思う。そういった成分を取り除いて彼らの音楽を聴いてみた時に感じる、何故かひょうきんに感じてしまうようなギターリフや、ひょおうと奇声をあげるボーカルワークの突飛さ、チープさの片鱗をのぞかせる打ち込みには、日本の80年代周辺のニューウェイブの流れがあるのではないかと思う。それは例えば、平沢進の率いたP-MODELや、戸川純周辺のヤプーズゲルニカあるいはプラスチックスのようなバンドであって、GHILOMのもう一つの源流はここにあるのではないかと僕は思っている。

 

 

こうしてニューウェイブとトリップホップが出会い、ミニマルにミニマルに形を変えていったバンドが、GHILOMなのだ、と僕はここで定義付けたいと思う。

 

不穏なワンパターンギターリフが曲中のリズムを引きずり、そこに怪奇的な散文詩が乗る#2 “Answer Reverse”、反響するフロアタムや弦楽器が湿っぽいトンネルの中にいるような気分にさせる#3 “個個”、アルバム中で、最もニューウェイブの空気感を色濃く写す#4 “Wander Steps”に続き、「ホワイトキューブ」という概念を前提として繰り広げられる、ホラーストーリー、”ホワイトキューブ”は、各人の持ちうる最も不気味な「箱」を想起させる怪作だ。僕はこれを聞いて京極夏彦の魍魎の匣を思い出した。無機的に進行する音楽に、時として声を上げる朗読が書き加えられる#6 “UNDO”、そして、ラストにして11分超の大曲、”あなたの中からわたしの中から”。シューゲイズ、アンビエントなリズムを持たないトラックに、最小限のメロディと歌詞を繰り返し重ね、時に唱歌的合唱を重ねるスタイルは、しかし、抑圧的でストイックだ。

 

名古屋という大きな田舎に残された妖怪、ギロム。彼らの語る怪異は、強く、深く街の影に刻まれていく。

 

 

 

amazonのURLも記載するが、ぜひ購入は名古屋の良心、FILE-UNDERから。

WRITER

tomohiro

エモを中心に枝葉を伸ばして聴いています。アナログな人間でありたいと思っています。野菜がたくさんのったラーメンが好きです。

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