disc review正体不明神出鬼没ポップコンシュルジュ

shijun

nicogorithe overweights

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栃木県出身のポップバンド、the overweightsのセカンドアルバム。「憂鬱女子のキラキラ・シンセポップ」をコンセプトにしつつも、そのベースとなる音楽性は実に幅広い。キッチュでポップでちょっぴりパンキッシュ。残念ながら今年4月から活動休止に入ってしまっているが、2、3年後には戻ってこれるかも、と言う発言もあるので期待しておきたい。

中華風なリフが癖になる#1「旧正月」。飛び跳ねるような雰囲気も楽しく、オープニングナンバーとしての魅力は十分。自己紹介風のサビメロディも異国感あるフックが効いていてキャッチー。#2「the sound」では一転してエモーショナルな雰囲気のギターオルタナが聴ける。いきなり中国からUKに飛んだかのような気分である。#3「宇宙の夏の秘密」は夏の緩やかで輝かしい風景と少しばかりのスペーシーさが融合する、まさに「宇宙の夏の秘密」としか言いようのないサウンド。全編に渡ってキャッチーながら虚しさも秘めたメロディもグッド。#4「くらげとわたし」はVo.の歌唱も気持ち若々しくなり、ストレートなサビも出てきてJ-POPっぽい手触り。 #5「Are U Sure?」はニューウェーヴとパンクの融合のような楽曲。性急なビートと不穏なリフに加工ボーカルまで飛び出すニューウェーヴなパートから、破壊的な2ビートに吐き捨てるような歌唱のパンキッシュなパートまで現れ、これまで見せてこなかった顔をまた一つ見せてくれる。さらに2番終わりでは大物ハードロックのようなコテコテのブレイクまで見せ、あらゆる音楽からポップに機能するエッセンスを持ち出すセンスに度肝を抜かれる。#6「ぎんいろ」はアルバム中もっとも「キラキラ・シンセポップ」に近いサウンドが聴けるか。少しドキッとするようなフレーズの現れる歌詞も気が抜けない。ハイファイでクールなサウンドに酔いしれた後は、コテコテのギターリフから始まるギターポップmeetsグループサウンズな#7「恋のAスタジオ」でまた再び彼女たちに振り回されることになる。がっつりとダサいわけではなくメロディにはしっかりと個性が出ておりこれまた面白い。#8「happy suicide」はギターとシンセの絡みが楽しい軽めのノリの曲であるが、シンセの音はどこか不穏で歌詞は「自殺をしよう」。最後まで彼女たちの持つ世界観に振り回されっぱなしだ。

「宇宙の夏の秘密」「happy suicide」など少し実験的要素が強く感じる曲もあるものの、基本的にはポップであり一曲一曲は非常にわかりやすい。しかしアルバムを通して聞くと彼女たちの深淵さにクエスチョンマークが止まらなくなる、不思議な一枚だ。多様な音楽ジャンルを縦横無尽に飛び回っている上に、メロディセンスですらどこ由来なのかわからない。時にはJ-POP的メロディを見せたかと思えば、UK、US風のメロディが飛び出す曲もあり、自己紹介曲である「旧正月」に至っては中国である。でもポップだからいいのだ。ポップってすごい。そのぐらいで納得して、あえて振り回されてみるのが正解なアルバム。バンドサウンドの楽しさ全てが詰まった一枚、楽しむしかないでしょう。

WRITER

shijun

ポップな曲と泣ける曲は正義です。female vocalが特に好きです。たまに音楽系のNAVERまとめを作ってます。なんでも食べます。

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