disc review激情の中でこそまばゆい、爛々と光る双眸の赤

tomohiro

A Short History of DecayCarrionSpring

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オレゴン州ポートランド出身のパワー/エモヴァイオレンスを地で行く4ピース、CarrionSpringのキャリア初のフルアルバム。同じくUS激情の中でも、しこたまパワフルでエネルギッシュな音楽性から、LOMA PRIETAiwrotehaikusaboutcanibalisminyouryearbookのメンバーが在籍することでも知られるBeau Navireと比肩するリスナーも多いのではないだろうか。

一切妥協、休みなしの常にフルテンなディストーションサウンドでガリガリとリスナーの精神に迫る切迫性と、その勢いの中にもコード感に垣間見える欧州激情的なエモーショナルが合わさることで、USらしいドライなパワーバイオレンスを実現しておりそのルーツは彼らがアルバムのラストにカバーしているRed Scareや、Red Scareとスプリットも出している、エモバイオレンスのレジェンドであるOrchid等のUSのバンドたちとRaeinDaitroといった欧州激情に辿れると考察するに至るものである。

 

 

さて、肝心のアルバムの内容だが、まずは15曲あるうちの6曲に”Selah I”~”Selah VI”のタイトルが割り当てられており、これらの楽曲がそれぞれイントロダクション的な役割を果たすことで、エネルギーで飽和してしまいがちなアルバム単位での通し聞きを苦もなく行えるものとさせている。むしろ、これらのトラックの存在がちょうどいいクッションになっていて、よりそれぞれの楽曲を腰を据えて聞けるとも言えるだろう。アルバム作成にあたってこれらのトラックの導入を決めたメンバーのセンスをまずは評価したいところだ。

このイントロダクショントラックを挟み、まず最初のディストーションとして耳に突き刺さるのが、#2 “Neck Romancer”であり、イントロから過激なコードチェンジで指が裂けそうなリフをぶっこんでくるのだが、これがもう脳汁爆発というべき素晴らしいリフであり、ここからのボーカルの入り、アルペジオでやや音圧を落としながらのシャウトや、一瞬挿入されるアルペジオリフの絡みの良さ、ドラムオンリーパートへの引き、そこから再び一気にピークへ持ち上げる熱量等、この一曲でよくもこれだけ美味しいところを詰め込んだなという白眉な楽曲。

次に心を掴まれたのは#7 “Swan Dive”であり、この曲は6/8拍子の空中ブランコ的なスイング感を良く表す開放弦系のリフがポストハードコア魂に触れるアツさ。#8 “Selah IV” を挟んだ後の”Red Tide”も凄まじい楽曲であり、のっけからぶっ放すボーカルのシャウトの掛け合い、不協和音アルペジオを力任せにねじ込み、高揚感を感じざるをえないオクターブリフでグイグイ引っ張る中盤の展開の情熱は素晴らしいものがある。後続の#12 “Troll’s roll”も然り。

 

今年でキャリア9年目に入ろうという、実は中堅バンドなのだが、Beau NavireThe Sky Above and Earth BelowSed Non Satiata等と数枚のスプリットをリリースしたり、V.A.に参加したりはするものの単独音源は未だこれのみである。それゆえにますますこのアルバムのありがたみも増すという風にも言えるのだが。

何はともあれ、エモヴァイオレンス、パワーヴァイオレンスに足を突っ込んでしまった諸兄はしかるべく聞く一枚であるという点、留意していただきたい。

12inchでのリリースもあったが、日本で現在手に入れられるかは不明。バンド、もしくは所属レーベルのbandcampから購入するのがいいだろう。(ジャケットは、複数種あるようだが、今回はバンドのbandcampページで使われているものに準拠する。また、レーベルのページではNYP、バンドのページからは5$で購入が可能である。)

WRITER

tomohiro

エモを中心に枝葉を伸ばして聴いています。アナログな人間でありたいと思っています。野菜がたくさんのったラーメンが好きです。

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