disc review言葉よ、今、未来、あの日の君へ

tomohiro

inletPAGELiaroid Cinema

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最近皆さん熱い気持ちになっていますか?リリース当時、スピーカーから溢れ出るあまりの熱量に圧倒され、今なお聞くたびに胸の奥に熱い炎を灯してくれる、大阪の感情直下オルタナティブ5ピース、Liaroid Cinema。現在は活動を休止し、メンバーそれぞれもFireplayUTUWA等それぞれの新しい活動を始める中、ツイッターでの久々のライブ告知を見て、なんとなく改めて聞いてみたら、今だからこそより鮮明に見えてくる、落とし込まれたエモ、ポストロックへの憧憬と、言葉の力を信じさせてくれる文字踏みの力強さに再び圧倒されることになった彼らのフルアルバム”inletPAGE”。

もともとこのバンドとの出会いは、大丸という名古屋のとあるパワースポットである(すでに現存していない)。まだそれが存在していた頃、僕は頻繁なときは週1で通うほどそこの文化にはまり込んでいたのだが、そこの客は非常にバンドマンが多いのも特徴の一つだった。ある日、いつものように開店待ちをしている時に、僕の後ろに、GRIKOというTシャツを着たバンドマンが並んだ。それで少しその日名古屋で開催されていたライブ事情を見てみたら、まさに今池のHUCKFINNでGRIKOがライブをしていたのだった。それで、いったい何がLiaroid Cinemaなのかという話だが、その日、同じライブの対バンでLiaroid Cinemaもライブをしており、ツイッターで少々調べたところ、どうやらGRIKOのTシャツを着て並んでいるこの人はLiaroid Cinemaの人らしいということがわかったのである。

そこで勢い余って話しかけ、話が弾みデモCDを手渡され、家に帰って聞いてみたところがまさに冒頭である。

 

 

 

となればそこそこドラマチックだったのかもしれないが、大丸において私語は厳禁であり、僕自身非常にシャイであるため、到底話しかけることもできず、バンド名を心の奥にしまってのちのち聞いてみたらめっちゃかっこよかったという話。

 

#4 “Full-Tenn”はVo. 矢田貝の紡ぐ力強い言葉をもっともストレートに感じられる一曲だろう。全員であいうえおを歌うパートは字面だけ見れば冗談のようにも見えるが、それを感じさせないエモーショナルな展開運びに、ライブで見れば間違いなく涙を流しながら合唱できるだろう。

彼らの音楽性は、ラウドロックと近しいところにあるようにも思える。大阪というシーンには、彼らのような、歌モノとしてのラウドロックのエモーショナルな要素と、それぞれの持つ音楽の嗜好をうまく組み合わせた素晴らしいバンドがたくさんいて、それは例えば裸体であったり、ホロ、メグルであったり、FIRE ARROWであったりする。そんなシーンの中で、彼らもポストロック的要素とラウドな歌モノとしての要素をハイレベルに融合させてきたのだと僕は思っている。

 

そんな彼らのクロスオーバー要素がよく感じとれるのが、#1 “inletPAGE”や#7 “Chase My Letter”に聞けるような大音量ギターや、タッピング、アルペジオを絡ませたインディーからのアプローチだろうか。これを初めて聞いた当初僕は歌モノポストロックにどはまりしていた時期だったので、”Chase My Letter”の冒頭のタッピングには胸が熱くなったものだ。歌詞にもハッとさせられ思わず背筋が伸びることも多く、#3 “TenderLOVE, TenderSEX”は情欲とは何か、愛とは何か、その間には何があるのかを矢田貝の言葉で紐解かんとする名バラードだろう。「僕の情欲は愛なのか?」なんていう青臭い問いかけをこれほどまでにまっすぐにぶつけられることがあるだろうか。

#6 “Not Mirage”は「記憶は蜃気楼」と繰り返されるその裏のギターフレーズをはじめとして、全編に散りばめられたギターフレーズのメロディアスさに潜む、アンコールトラック的大団円要素が素晴らしく、ハーモニカまで突っ込んでこられたらもう涙待ったなしだ。もはやこれがラストトラックでないことに不思議さを感じつつ、ラストトラック#12 “SONGoftheBITCH”にたどり着いた時に、まず驚くのは、ベキベキに歪んだベースフレーズとカオティックハードコアかと思うほどの序盤の畳み掛けだろう。この曲において、この歪んだベースは場面場面を切り替える強引な挿入として働いており、疾走への導入である。この混沌とした楽曲の上に乗せられる、言ってしまえば「一番どうしようもない感情」を歌い上げたこの曲は、どこにもやり場がなく、それゆえに最後に配置されたと考えればしっくりくるようにも思える。

「ただいまをもちまして、今回の人生の執行猶予は終了しました。」

 

10年代前半の、日本語ロック最盛期に、間違いなく彼らでしかない轍を残してきたLiaroid Cinema。実に今後の活動が楽しみではないだろうか。

 

WRITER

tomohiro

エモを中心に枝葉を伸ばして聴いています。アナログな人間でありたいと思っています。野菜がたくさんのったラーメンが好きです。

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