disc review吐息と嘆息の間から生まれる、暖色の音階の群れ

tomohiro

Timeスーパーノア

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スーパーノア、京都の秘密兵器、あるいは隠し財産と呼ぼうか。2004年の結成以降、緩やかに活動を続け、活動歴としては13年目にあたる2017年、待望の1st full album “Time”をリリースした。Gt/Vo. 井戸の多岐に及ぶ深い音楽への造詣と、各メンバーの「わかってる」アレンジが加わることにより、彼らスーパーノアは軽やかな口当たりながらその実複雑怪奇なことをやってのける、「ひねくれポップ」と呼称するにふさわしい音楽性を獲得した。(名古屋のバンド、Ophillの自称ジャンルをお借りして言うのであれば。)

 

僕が初めて彼らを知ったのは、Crawlという楽曲だ。

各楽器隊のスリリングな駆け引きに滑るように伸びていく井戸の歌声、Aメロ、Bメロ、サビとその表情を変えながら色彩豊かに展開していく楽曲の裏に隠された技巧性には脱帽で、京都という土地のバンドについては少し踏み込んだ知識を持っていると思っていた自分の無知さを恥じた。

 

この楽曲は彼らのテクニカルな面を押し出したニヒルな楽曲ではあるが、今作”Time”にも、各メンバーのセルフライナーノーツから察するに余りある膨大なチューンナップの繰り返しとこだわりの凝縮により完成された、スーパーノアでしかない値千金の楽曲が詰め込まれている。

コミカルなキーボードフレーズに突如カラリとした混乱を招くディストートされたギターの叫びが楽曲の印象をガラリと変える#1 “U(n)A”によって幕を開ける今作、フックをかけた展開の構成で魅せる#2 “MADA”に続く、4拍子と3拍子のポリリズムを貫き通すことによって、疾走感と不思議な浮遊感の両立を獲得した#3 “ドリームシアター(009mix)”では(実は)ポリリズムを決して途絶えさせず少しづつその温度感を増していくテクニックに思わず舌を巻くだろう。#5 “グッドラック”は実に爽やかなアップテンポチューン。夏の景色がよく似合うような疾走感とBメロの落ち込み、これを2度繰り返しなおかつサビ前の変拍子もどきのキメで一旦タメを作ってからのサビの気持ち良さと言ったらもう!(セルフライナーノーツで明かされる左右で別テイクのドラムがなっているという意図の見えないこだわりにも愛らしさが増す。)

アルバムの折り返しとなる#6 “Timetable”では柔らかいベースの音が暖色の音階を紡ぐ。#7は彼らのキラーチューンとして長く演奏されてきた”リリー”を心機一転新たにレコーディングしたトラック。歌詞も少しずつ書き換えてきた中から選び、アルバムにあたって再録という手段をとらないところにも彼らの強い音へのこだわりが伺える。

#9 “what light”はライブで実際に見てもっとも胸を打たれ、本アルバムの中でも僕が一番気に入っている楽曲だ。夜更けから夜明けにかけてのぼんやりとした暗がりのひたひたとした暖かさがページをめくるごとに色づいていく絵本のように物語性を持って溢れ出す。何よりもアウトロの名フレーズがひたすら繰り返される多幸感は言葉にし難いものがあり、ぜひ聞いて欲しい彼らのマスターピースだ。

 

決してギラギラと輝く何かではない。日常に寄り添うようにしてほっと明かりを灯すような彼らの音楽は、万人に向けられたものではないだろう。しかし、まずは聞いてみて欲しい。あなたの中の何か小さなものに明かりが灯る感覚がきっとあるはずだ。

このアルバムのセルフライナーノーツを読むと100倍聞いていて楽しくなるので絶対読みましょう。

 

WRITER

tomohiro

エモを中心に枝葉を伸ばして聴いています。アナログな人間でありたいと思っています。野菜がたくさんのったラーメンが好きです。

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