disc review湿り気を帯びた光線と蠢く地平

tomohiro

House of Wisdom | We are The DevilPoly-Math

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メタリック・マストリオ、Poly-Mathの新譜。まずはこの曲を聴いてほしい。

 

たった1分半で彼らが一体どういうバンドか大体分かってしまう秀逸な曲である。また一方で、ポストメタル的要素としての湿り気と教会というロケーションからなんとなくSUMACを思い出させたりと、色々バックグランドが気になってくるバンドだ。このMVを見たときに何となく感じた「USのバンドではない」独特のたたずまいとメランコリックな音像から、これまたOathbreakerみたいにベルギーとかどこか東欧辺りのマイナーな国から資格がやってきたのではないかと思いを巡らせたりもしたが、結論としてはUKのバンドである。

さて、彼らの音楽を紐解くうえで重要になってくるのが、そのバックグランドではなかろうか。プログレっぽくもあるし、クラシカルなリフはメタルからの影響も感じさせる。そのうえで彼らのbandcampを見てみると、King CrimsonThe Mars VoltaSantanaが好きと出てくるわけなのだが、いや、Santanaって。

 

と思って改めてSantanaを聴いてみたのだけど、思ったより納得してしまった。

彼らの音像や音作りのそれはポストメタルの様式を感じさせるし、これでひたすらに哲学的にリフを刻んだり、ドゥームにスロウテンポで開放弦を鳴らしたりしていたらまさにと言ったところなのだが、彼らの演奏自体の様式はマスロックのそれを彷彿とさせるものだ。そもそも、根明なフレーズの雰囲気自体も、ポストメタルというよりはマスコア界隈のそれに近いだろう。参照としてThe Physics House BandとかAnd So I Watch You From Afar辺りを並べると割としっくりくるのではないだろうか。これらのエフェクティブで突拍子もない展開を得意とするバンドに、耽美でシンフォニックな要素をかみ合わせると、Poly-Mathが生まれてくるのだ。

 

今作はこれまでの彼らが持ち味としていた闇を感じるような音の広がりにタイトな変拍子を情熱的に盛り込み、発散するところではシンフォニックメタルばりの荘厳なコードワークを披露する。アルバムタイトルと曲名のすべては2面性を持っており、表の顔に対してそれの持つ悪魔性を裏で描く(例えば、哲学 | 死と悪魔というように)構成になっているが、この最後が#11 “Science | We are The Devil”というタイトルで結ばれるのはなかなかに示唆的ではないだろうか。科学によって立脚する現代において、そこに住まう我々は全員が悪魔であると主張するのである。中二くs

#2 “1258 | In the sights of Mesopotamia”はいきなりの長尺。マス的な緩急もつけながらも、深い残響の中から生まれるようにして響き渡るイントロとそこからのメカニカルな変拍子リフ、クラシカルな残響との行き来はのっけから聴き手の高揚感をかなり高い位置まで押し上げてくれるだろう。そこから中盤の静寂パートを挟みつつ、後半は轟音の壁を背に受けながらメランコリックなギターリフを連発。#3 “Ink of Scholars | Blood of Tigris”では邪悪なベースリルフとエフェクティブなコードのかき鳴らしで得られるカタルシスをその後のマス展開で発散していく。その後はハエの羽ばたきを思わせるノイズの蠢きと深く残響するピアノが退廃と耽美を感じさせる#6 “Astronomy | The Uncelestial”をハブとして後半へ接続。

#7 “Alchemy | Terra Incognita”はのっけからリスナーを置いてけぼりに全速力で疾走する変拍子リフがアドレナリンを沸騰させる。この曲で発揮されるような破壊的な音の壁はマスロックのくくりであまり現れなかったもので、この新鮮味には舌を巻く人間も多いのではないだろうか。続く#8 “Philosophy | Death & The Devil”も全力疾走とテクニカルなリフとの反復横跳びが見事で、スポーツを感じさせるフィジカルの応答が現れてくるだろう。といいつつも、前半と後半は深いフィードバックによる空間の広がりを演出しているのも彼ららしさか。その後は冒頭に挙げた必殺のショートチューンを挟み、#10 “Ink of Scholars Reprise | In The Hands of Hulagu” は4分かけた最終章への序曲。

そして必殺の15分#11 “Science | We Are The Devil”で声高々に宣誓を果たし、幕を引く。

 

シンフォニックメタル的クサメロ要素と体育会系変拍子でゴリゴリと削り取ってくるPoly-Math。これ絶対ライブとか楽しいと思うな。頭振りまくってさ。

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tomohiro

エモを中心に枝葉を伸ばして聴いています。アナログな人間でありたいと思っています。野菜がたくさんのったラーメンが好きです。

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