disc review2024ベストミュージックたち – トモヒロツジ選
2024年、皆さんはどんな音楽を聴きましたか?
もう2025年になってしまったんですが、年内に振り返るのはマストではないはずなので今から振り返りを兼ねてよかった音楽を紹介しようと思います。
今回は30曲選びました。昨年リリースで聞いてたアルバムをザーッと並べて、ザッピングしながらなんとなくいいね付けていったらちょうど30曲だったのでこれでええやんという感じです。
Apple Musicのプレイリストを作ったので、これで聴きながら追ってもらうなどが良いかと思います。
一部ない曲などあって不完全ですが、YouTubeでもプレイリストを作ったので、聞きやすいほうで。
では、レビューへ進みましょう。
1. Secret History / Foxing
冒頭からハードな選曲となってしまいますが、現行エモを一線で牽引しつつクリエイティビティを失わないFoxingの新譜はとにかくエネルギーが詰まって最高だったのでまずはこれから始めたい。
果汁滴る甘美なディストーションサウンド、音の壁、喜びの象徴。
2. Soliloquy / Fax Gang & Parannoul
これ結構今年のベストに上げてる人多いアルバムなんじゃないですかね?シューゲ・ドリームポップのParannoulとEDMのFax Gangの共作アルバムです。メディアではParannoul文脈で触れられてることが多い印象ですが、僕は明らかにFax Gangの仕事がこのアルバムを名作足らしめていると思います。エレクトロネイティブにドラムンなど取り込みながら緻密な制作でダンサブルとナイーブを両立させた素晴らしい仕事だなと。
3. New Species / Iglooghost
EDM/IDMの流れでIglooghostの新譜からNew Species。Iglooghost、今年の頭ごろに来日しててライブがめっちゃ良くて、それで久しぶりに聴いてたらヤバい新譜が出て最高に上がりました。
Iglooghostはブレインフィーダーに在籍してた頃のアルバムをちょろっと聞いてたくらいだったのだけど、当時の軟骨魚類的な、しなやかで無形の音像から、今作Tidal Memory Exo(口に出したくなる)に至るまでで、硬い骨を得て硬骨魚類となり、ついには外皮に硬い骨板を得た、さながらデボン紀の海洋の覇者ダンクルオステウスを思わせわせる風格に至っていて痺れた。彼の持ち味である低音のボーカルと曲の硬さ、シリアスさががっちりかみ合ってる感じ。
4. 恐怖の星 / 長谷川白紙
「口の花火」が先行リリースされてブレインフィーダー入りが発表され、えらいこっちゃと思った国内のリスナーは数知れず。口の花火はこれまでよりももっちりしたグルーヴへの歩み寄りを感じた部分もあり、そういう方向性のアルバムなのかな?と思ったところにこれこれ!という感じの恐怖の星。ギラギラでうれしい。ソニマニでライブ良すぎてビールクソ回ってゲロ吐いたこと思い出す。最高の思い出ありがとう。
5. QUE GI / Dos Monos & 大友良英
Dos Monosの新譜だ!ドス心して聞くべし。アブストラクトさに磨きがかかりつつも跳ねて踊れるリズムセクション、大友良英とのコラボで発揮されるノイジーな音像。でも何よりもこの曲並びに今作で僕が最高だと思ったのは、荘子itのギターの音作り。マルチエフェクターで初心者が作ったみたいなギシギシキシキシしたハイゲインのディストーション、Xtortionみたいな出音が好きな僕に激刺さりして最高。この音がかっこよくなってるのもまたソングライティング力。。
6. Through the Brighter Eyes of Hazel / Your Arms Are My Cocoon
ベッドルームskramzとかいう、誰も追いかけてこなさそうな孤高の音楽を続けるYAAMC。来日見に行っててライブが感動を覚えるほどのナードさでいや参ったというところなのだけど、音源もすごかった。脳が溢れすぎてるよ。
ここまで順に聞いた人は音像の落差に驚くと思うけど、大事なのは目的があったその音を作っているか?だと僕は思っていて、それをビシッと感じるからこれは正解の音だと思う。精神が安定している人間にはこれは作れない、ありがたい。泣ける。
7. THE CUT DEPICTS THE CUT / SPIRIT OF THE BEEHIVE
自分の中のオルタナヒロー、SPIRIT OF THE BEEHIVE。不穏すぎるイントロ、突然始まる謎のラップパート。人をおちょくっているニヒルさと遊び心をとにかくシリアスに聴かせることに徹底した構築の美しさたるや。マジでかっけぇ、、、の気持ちになる。
8. Black Sugar / Jean Dawson
今年のフジに来ないかなーとひそかに期待しているニューホープ、Jean Dawson。伏線を張ったリズムセクションに腰かけて中盤で大胆に変わる曲調でめっちゃくちゃ踊れる。Yves Tumor好きな人とか刺さるんじゃないかなー。
9. BITE! / Sān-Z & HOYO-MiX
PolyphiaがABCでぶち上げたニューポップなメタルは思わずみんな真似したくなるよなーと思う。PAS TASTAもモロインフルエンスな曲を出してたけど、それの5倍くらい恥ずかしげもなく大胆に後追いをやってるこの曲。
アプリゲーム、ゼンレスゾーンゼロのエレンというキャラのキャラソンなんだけど、クールかつKAWAIIにまとめ上げててGOOD。結局こういうのテンション上がっちゃうよねーを地で行ってて良いです。
10. コントラスト / 篠澤 広
同じくキャラソンということで、アプリゲーム学園アイドルマスターから1曲ピック。学園アイドルマスターはこれまでのアイマスの路線から切り替わってソロフィーチャーの楽曲をメインで押し出す感じなんだけど、曲が増えるたびにアイドルの理解度が上がっていくような感じが楽しい。
コントラストを歌う篠澤さんはほかにも長谷川白紙、フロクロなど、なるほどみのあるメンツが曲を書いているんだけど、その中でもシックかつ技巧的なこの曲が僕は一番好き。初めてライブ映像見たとき、あまりに完成されていて、昔クラスが一緒だったときはつまらなそうに授業を受けていた篠澤さんが輝く場所を見つけて今まさにきらめている、という無い記憶がフラッシュバックした。
11. BREAK MY CASE / 竹内アンナ
いつライブラリに追加したのかも記憶にないんだけど、改めて聞き直したら仕上がりすぎててもう一回ちゃんとアルバム聞き直そうと思った曲。「あの頃」のJPOP狙いが伝わりすぎるコーラスエフェクトとパチッとしたスラップベース。シンプルにメロディがいいから何を乗せてもおいしいって感じ。それの結果がこれなのがいい。
12. ジャンク / AIR-CON BOOM BOOM ONESAN
芸人さんらしいけど、芸人が出す歌、という枠でやるには楽曲ができすぎてない?そこで戦ってるんじゃないんだぞ、という気概を感じる。Nu jungleみを感じるドラムンベースめっちゃ気持ちいいなー。アルバムの中での振れ幅も十二分で懐が深い。
13. symptom of life / WILLOW
グルーヴィーでメロウな感じで行きましょう。もっちりとしたベースとホール感のある残響が気持ちよいピアノに牽引される歌の気持ちよさ。ウィル・スミスの娘らしいけど、これまた、そういう枠の戦いじゃないよなもはや。英才教育ってことなんかなー。
14. God Will Help You Heal / Sault
年末にヤバいリリース来てしまった!アルバム出るたびに音楽うますぎる、、と思ってるUKのSaultの新譜がめちゃスムースでR&Bでまたすげぇの上限を更新されてしまった。アルバム全体がシームレスに構成されているから1曲だけ抜き取るのは正直悪手ではあるんだけど、入り口としてとりあえず1曲聞いてみて。アルバム通しで聴くともっと最高。今年の音楽方面での収穫は、自分がベース弾くようになったことで、こういう音楽がより楽しくなったところかなーと思う。ベースの花形だ。
15. Breathe Now / Tara Lily
続けてUKからTara Lily。多分これがデビューアルバムだよね?
PinkPantheressのダークサイドとでもいうところか、ベッドルームで成立する端的な音の配置、シリアスさを強調する間の積み方、牽引するジャングル。オリエンタルな彩色。全部がスタイリッシュに決まっててかっこいい。ネオ・ゴシックなルックも仕上がっててアイコニックで憧れを覚えるティーン多そうだ。牽引してくれ。
16. Mellow Night Bass / Tyrkouaz
ミクスチャーにD’n’B愛を詰め込んだ前作が大好きでかなり聴き込んでいたし、自分らのライブにも出てもらえた思い出深いTyrkouaz。ソニマニでの(実質)NIA Archivesとの対バンも経てドラムンベースがさらにリアルタイムにアップデート!時代に追いつく脚力とそれを訴えかけるためのJPOPらしさとのバランス感が白眉で、本当に聴いていてワクワクするなと思います。
17. Holding On / STRFKR
2016年リリースのBeing No One, Going Nowhereがめちゃくちゃ好きで、それ以降も僕に刺さってるシンセポップ路線を継続してくれているSTRFKRだけど、新譜はまさに正統進化!!という感じで期待を超えてくれてありがとう、という気持ちになった。あの時のあの音が好き、はある種呪いでもあるし、ファンとしてあまり大声でいうのははばかられるのだけど、本人たちもそう思ってるのかな?なら言ってもいいよね。
18. Reaching Out / Beth Gibbons
2024年のフジロックはベス・ギボンズ、キム・ゴードンの2人のアイコンが牽引してたと思う。二人ともめっちゃ暗くて最高!って感じの新譜だったけど、ベスの方は非破壊的な方向で内省を突き詰めていて、彼女のメンタリティがこちらに伝播してくるような感覚すらおぼえた。Reaching Outを全然やる気配がなくてしょんぼりし始めたところで、最後の最後にライブでやってくれて僕は本当に舞い上がりきった。ベースがめっちゃかっこいいこの曲。ライブで見たベスのマイクにもたれかかる歌い方が、Portisheadのころから何も変わってなくてそこにも感動を覚えた。
19. BYE BYE / Kim Gordon
一方で完全破壊、完全帝政を敷いてたキム・ゴードンのライブ。年齢を問うのは野暮なほどスタイリッシュに仕上がりすぎてる威風堂々の佇まい。演者全員がでかい音とノイズを出すことしか考えてない殺伐としたライブ。圧倒的、、、。ホワイトステージの音響がベストマッチだったと思う。
20. Dumb Guitar / Mount Kimbie
Mount Kimbieはお尻でかい女の人のジャケット以外あんまり聞いてなかったのでふんわりと新譜聞いたらもはやEDMでもなくて驚いた。UKインディーやりたい、ギター鳴らしたい、King Krule最高!みたいな心の声を感じ取った。Mount Kimbieファンからするとこのアルバムはどういう評価になるんだろう?僕はインディーロック好きなので、インディーロックとしてめっちゃ良かったと思いました。
21. Disasters / Touché Amoré
毎回期待を裏切らなさ過ぎて、新譜が出るたびその年のベストに名前を挙げてしまう。常に今が一番、変わらないまま今が一番。
22. 同胞に捧ぐ / Laget’s Jam Stack
StiffSlackのTapiさんの激レコメンで出会ったけど、好きなものが同じそうすぎて、もうここまでそれを取りこめてるのかーという気持ちとであまり冷静でいられない。COWPERSもkillieもLangもi have a hurtもPRIMACASATAも全部飲み込んで突き進んでくれ。リードギターのフレーズが激情・激唱的ギターロックであまり聴かない早弾きするぜ!って感じなのがいいエッセンスでフレーズのセンスがとてもあるからそれがマッチしてて独自性出ててかっこいい。
23. BOTE / MIRROR
17年ぶりのアルバムって何の奇跡だろう。10年以上前にライブ見たときの高揚がそのままよみがえって来るような、テクニカル+メロディアス+汗+涙で胸が熱くならざるを得ない。NINE DAYS WONDERが世にもたらしたものの偉大さの語り部としても、今後もぜひ、ぜひとも音楽をお願いします。
24. 颱 / 水平線
京都のギターロックバンド水平線。京都のバンドは僕が学生のころから歌ものにおいて常に我々庶民の2歩くらい上を行っている完成度だと思うんだけど、久しぶりにぐっと胸をつかまれたバンド。人懐っこい楽曲に朗々と重なるコーラスワークでまるで唱歌のような普遍的良さを手にしている。合唱曲に採用されてほしい、中学生・高校生がこれを合唱してたらもう青春すぎるな。
25. 鉄道 / corner of kanto
現行の日本語ギターロックの先端を常に探求し、まい進を続けるcorner of kanto。ファンも万感の思いで迎えた2ndアルバムはポストロックの水源からそのまま水引いてきたかのような澄んだ佇まいで、そこに乗る歌がこれまで以上に「うたもの」として磨かれていて、明らかにこの2つは違う方向へ向かっているはずなんだけど、強固なアンサンブルでまとめあげられてすごく気持ちよく聞けるパッケージングがなされている。新譜の中でも彼らの持ち味を生かしながら歌に伸長している鉄道をピックしました。
26. 美人 / Trooper Salute
これもStiffSlackのTapiさんレコメンドから。名古屋で活動中のシンセポップバンドの1st epから先行シングルとしてもリリースされた曲。とりあえず聞いてみてほしい。小川美潮(もといチャクラ)的なジャパニーズオリエンタルの空気感がひしひしと伝わってくる。ソングライティング力に末恐ろしさを感じる。。
27. 予感 / DIR EN GREY
全然今年のリリースじゃないのでアレなんですが、ニューシングルのB面にまさかの当時のアレンジままでの再録がされてて、とんでもなく喜んでしまったのでここに並べておきます。当時の音源を聞き込んでいる人間ほど、2024年版を聞いて痺れるはず。ファン向け、ファンは聞け。
28. Mahal / Glass Beams
今年のフジのベストアクトGlass Beams。ミステリアスなルックとMATONのかっこいいビザールギター、ベースでとにかく目を引くオーストラリアのバンド。正直見た目から僕も入ったところは否めなかったんですが、彼らのルーツであるインド音楽をミニマルなアレンジに大胆に落とし込んで、じわじわ汗をかくような、マントラが身体の中から熱を発してくるような、サイケデリックなダンスミュージックはライブでこそ真価が発揮されるもので、信じられないくらい踊ってしまった。ライブでやってた未音源化曲、アッパーでよかったから早く出してほしい。
29. מה יהיה עלינו / פנחס ובניו מה יהיה עלינו
急になんだこれはとなるかもしれませんが、英訳するとWhat will be the end with us / Pinhas and Sonsです。イスラエルのビッググループで、中東ジャズ・ポップスの真髄を感じることができる。とにかくリズムが難しい。繰り返しが少なくて多展開で大体変拍子。なじみのないコードも多いし、とにかく未聴感の嵐という感じ。自分の中で未聴感というとAntonio Loureiroが思い浮かぶ。でもブラジル音楽と違ってイスラエルのポップスは根っこが人懐っこいキャッチーさがある。なんか底抜けの明るさがある。そういう意味でとっつきやすさ自体はあるかと思う。
30. The Curse (Blood Of An Innocent Is Spilled) / Tigran Hamasyan
続けて東欧はアルメニアから、ジャズピアニストTigran Hamasyanの新譜でトリを飾ろうと思います。2023年秋の来日でライブを見れたのだけど、とにかく信じられないくらい上手い。そのときはスタンダード中心だったので、彼本人の楽曲で見られるような奇々怪々な変拍子やシネマティックでシリアスな音運びは控えめだったものの、表現力に圧倒されるばかりだった。
2024年の新譜は過去作のMockrootや The Call Withinのような超絶技巧でファンを沸かす楽曲も盛り込みつつ、一大叙事詩を音楽で表現するコンセプチュアルなアルバム。なので、アルバムを通しで聴いてほしいんだけど、それはそれとしてこの曲はかっこいいのでピックしてます。Animals As Leadersの鬼ドラマー、マットガーストカも迎えテクニカル界隈垂涎の新譜、ぜひ聞いて痺れてください。
以上、30曲くらい並べると雑多でとりとめのない感じになるけど、たまにはこういうのがあってもいいかなと思った。2025年も音楽聞くぞ!