disc review危うすぎたディストピアの絵画的鳴動
同時に消える一日blgtz
日本のオルタナの最深部を一直線に進み続ける、孤高のDIYアーティスト、田村昭太によって繰り出される重厚で荘厳なる音世界。それがblgtz(ビルゲイツ)である。今回レビューするのは3rdフル。その音像の妖しさと圧倒的音圧感はマスタリングエンジニアとして、Coldplayなどを手がけることで知られる、Sean Mageeが参加していることにも起因してるだろう。うねるベース、叫ぶギター、轟くドラムと、そこに重なる田村のヒステリックな歌声はまさに圧巻であり、聴く者の精神世界を制圧する。その破壊的世界観の美しさは、THE NOVEMBERSの小林祐介にも大きく影響を与え、ライブを見て涙を流すほど感動したと、”zeitgeist”リリースに寄せたインタビューで語っている。
不穏に地面を揺らし続けるドラムにより幕を開け、一瞬の無音ののち全ての事象を飲み込む暴発とともに感情が吐き出される#1 “イデオロギー”に始まり、そこから一転してピンボケした花畑を見ているかのようなまどろみを持ったアルペジオが印象的な#2 “くしゃみ”、コーラスとして小林祐介も参加し、ディストピア的ユートピアサウンドスケープが広がる#7 “フィクション”、金属質で可及的かつ速やかなる疾走とともにポリティカルな思想が現像的に焼き付けられるショート・キラーチューン#8 “冷蔵庫”など、緊張感を湛えつつもいつどこでそれを溢れ出させるかを、虎視眈々と見定め続けているかのようなギラつきが感じられる。実に各曲を絡めて、もしくは一曲の中での緩急のつけ方が見事で、実に巧妙にこちらの感情を揺さぶってくる。いつの間にか、感情という名の水を湛えた水瓶は、”blgtz”という世界と共振を始め、揺らぎ、震え、砕け散る。
“ホンモノ”は出音の一音目でそれと分かる。それに言葉を尽くす難しさと危うさを感じる。
イデオロギー
くしゃみ