disc review歩み続ける朱の花、その踏み出した一足目の跡

tomohiro

あの日の空に踵を鳴らせつばき

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今年で活動15周年を迎えた円熟のスリーピースロックバンド、つばきのメジャーデビュー前に発売された1stフルアルバム。一度メジャーデビューするも、再びインディーズへと舞い戻り、着実な歩みを続けていた彼らは、2010年に一度その歩みを止める。ギターボーカルである一色に脳の腫瘍が見つかり、音楽活動の休止を余儀なくされたためであった。そしてその後、一色の療養の終了とともに、満を持して2013年に復活。その後もコンスタントに作品をリリースし、活動を続けている。

 

この作品の直後、メジャーデビューシングルとなった”昨日の風”を筆頭としてよりポジティブで、ブライトなバンドサウンドへとシフトし、完成された2ndアルバム、”夢見る街まで”は、ポップスとして素晴らしい出来を誇り、自身の持つナイーブな感性とメロディをうまくメジャー感と合併させた快作だった。

一方、そのアルバムと比べると、月と太陽とも取れる作品が、今回レビューする”あの日の空に踵を鳴らせ”である。”夢見る街まで”は、インディーロックの空気感を踏襲したアコースティックライクな温かみのある音像だったが、こちらの作品では、その音像はもう少しディープで鋭く、オルタナやグランジライクな乾いたギターの鳴りが、一色の潤いに満ちた歌声と不思議なハーモニーを奏でている。歌メロはJPOPのそれであり、間違いなく”日本のバンド”なのだが、歌を除いてバンドサウンドに注目してみると、Shinerであったり、Failureであったりと、グランジムーヴメントに持ち上げられたグランジエモバンド達と同じ香りを持っているところが面白い。

それは例えば#2 “青”のイントロに鳴る不協和的ディストーションギターであったりするわけなのだが、しかし、あくまでもそれが主題となることはない。こういったフレージングを取り入れるという試みには、彼らの多感の時期にそばにあった90’sエモやポストハードコア、グランジの流行、並びにそれに続いたeastern youthNUMBER GIRLART-SCHOOLCOWPERSなどの00年代前半のジャパニーズオルタナ、パンクの盛り上がりが一因としてあることは否定できないだろう。

 

同系統のバンド達と比べるとすると、初期のGRAPEVINELOST IN TIME藍坊主などと並べることとなるが、このバンドが愛おしいのは、これらのバンドほどのメジャーシーンへのアプローチがなかったことだ。有り体に言ってしまえば地味、しかし、彼らは鈍い輝きを保ち続けるだけの光を秘めていた。そして、彼らだけに見えている確かな自分たちの歩みがあった。それゆえ、一度登ったメジャーという舞台から降り、彼らは再び自分の足で歩むことを始めたのだ。メジャーを離れたのちに発表された”覚醒ワールド”では、より実験的で多岐にわたる方法の模索が感じられ、ポップながらもどこか抑圧的であった”PORTRAIT +”から見ると、のびのびとした空気が感じられる。

 

今年度は結成15周年のライブイベントが控えるつばき。その彼らの初期衝動とも言える1stアルバムは、彼らの歩く道の原点が鮮やかに描かれた作品だ。

 

 

WRITER

tomohiro

エモを中心に枝葉を伸ばして聴いています。アナログな人間でありたいと思っています。野菜がたくさんのったラーメンが好きです。

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