disc reviewレトロで甘美な煌めきの中で、メランコリックな囁き

shijun

Down In the Holetexas pandaa

東京を中心に活動していたバンド、texas pandaaのフルアルバム。残念ながら2013年に活動休止してしまっている。今作は彼女達の元々の持ち味であったシューゲイザー路線は抑えめで、そこにネオアコやネオアコ誕生前夜の80’sポストパンク風の楽曲が多いか。音作りは攻撃性は少なく心地よさを重視しており、そこに乗る女性ウィスパーのツインボーカルがさらに良い味を出している。

ネオアコ風の軽快なサウンドにゆったりとしたメロディラインが心地よい#1「Down In the Hole」。あまり轟音要素は無いものの、軽快なサウンドの裏でつま弾かれる甘美なギターサウンドにはやはりシューゲイザーを通過した者ならではの煌めきを感じるか。落ち着きつつもエバーグリーンな雰囲気からはイギリスのThe SUNDAYSあたりを思い出す部分も。#2「Suddenly」も全曲に引き続きゆったりした曲。ツインボーカルの利点をこれでもかと言うほど活かしたコーラスワークは圧巻の一言。ドラムの音像や甘美なギターフレーズには80’sポストパンク風のレトロな質感も感じられる。#3「people」はメランコリックな雰囲気で始まり、ウィスパーボイスとの相性は最高。その後は少しずつ盛り上がっていくがシューゲイザー的と言うよりはギターポップ的か。#4「Blue Drapes」はしっとりとした中にもノイジーなギターが聴け、後半ではホワイトノイズに塗れたシューゲイザー展開も。元々シューゲイザー界隈で活躍したバンドだけにお手の物である。#6「Trace of the Slightest Sense」はエレクトロニカ色の強い楽曲。切ないながらも希望を感じさせるコード進行が良い。アルバム中では最も異質な曲であり短いながら良いアクセントになっているから。#7「Gone」はネオアコ、80’sインディを基調としつつも随所でシューゲイザー要素も感じさせる一曲と成っている。最後のギターソロの手触りのレトロさはギターヒーローっぽさもありこれまた深い素養に驚かされる。#9「When It Came to the End」は全編メランコリックな雰囲気で進行する一曲であり、静寂系ポストパンク的な甘美なギターソロが聴けるのが素晴らしい。メロディの優しさも涙を誘う。#10「The Town」は前半はこのアルバム中で何度も聞けたレトロなネアオコだが、アウトロでは轟音ギターにホーン風の音も入りアルバムの空気感を拡大させて締め。

シューゲイザー色を明確に感じさせるのは#4ぐらいで、それ以外の楽曲においてはエッセンス程度にシューゲイザーを通過してきたが故の音作りが聴けるぐらいである。その分このアルバムからは80’sポストパンクや初期型ネオアコへの深い造詣が感じられ、特に日本においてはフリッパーズ以降どうしても画一的に成っていたネオアコへの解釈を改めて大基から攫い直したかのような一枚と成っている。もっとも難しいことを考えずとも耳障りが良く落ち着いて楽しめる一枚に仕上がっており、ウィスパーボイス愛好家なら手を伸ばし甲斐があるだろう。

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shijun

ポップな曲と泣ける曲は正義です。female vocalが特に好きです。たまに音楽系のNAVERまとめを作ってます。なんでも食べます。

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