disc review響き、揺らす共鳴と重音は地の底か、あるいは深き海か
If Tomorrow The WarConstants
2003年にボストンにて結成された3ピース、ポストメタル・アトモスフェリックハードコアバンド、Constantsの3rdアルバム。重厚なヘビーリフの連続と、アンビエント、シューゲイズ的飽和音像は、まさしくポストメタルのそれであり、インストトラックとして聞くにも十二分のクールさなのだが、そこにボーカルが加わるのが、彼らのスタイルである。Caspianなど、この手のバンドで一つの楽器的にボーカルを導入するバンドは他にもあるが、彼らは、完全にメロディを楽曲中に組み込み、歌モノとしてポストメタルを成立させているところが白眉だ。こういったところは、Toolのようなヘヴィ・プログレッシブロックバンドの影響が強いことは明らかだろう。
また、彼らは強いDIY精神も持ち合わせており、この作品の前作となる、”The Foundation, The Machine, The Ascension”のリリースツアーの際は、ツアー用にバスを一台購入し、廃油で走るように改造してレストランから廃油を集めながらツアーを回ったという、クレイジーな逸話もある。今作はVo/Gt.のWillの所有するスタジオ(太陽光発電を採用)でレコーディングを行い、ここにもDIY精神の一端が現れている。また、ミックス、およびマスタリングは、Jesu/GodfleshのJustinの手によるもので、これは、Stiff Slackリリースの”The Foundation, The Machine, The Ascension”国内盤に収録された、リミックス音源をJustinが製作したことがきっかけだろう。
重厚ながらも疾走感十分のリフによって幕を開ける#1 “Your Daughter’s Eyes”は、曲の表情に合わせて柔軟にスタイルを変えるドラムが楽曲の芯のあるしなやかさを演出している。#2 “The Sun, The Earth”は、Comeback Kid/Sights & SoundsのVo.をゲストに迎えての楽曲だが、これが実に素晴らしい。Comeback Kid自体は、Shai Huludのようなニュースクールハードコアの香りを感じさせるメロディックハードコアなのだが、このハードコアボーカルが実にConstantsの飽和的で重厚なサウンドとマッチしており、物足りなかったハードコア成分とメロディックさを存分に補っている。個人的にはこの編成でこれからは曲を作って欲しいくらいの名曲だ。
また、ブラッケンドポストメタル、エクスペリメンタルメタルバンドTombsのVo.もレコーディングに参加しており、#6 “Spiders In White”ではDeafheavenにもつながるシューゲイズハードコアな壮大なギターリフに絡むハスキーでドゥームなボーカルがディープな終末的世界観を演出している。
もちろんゲストボーカル曲だけがこのアルバムにおけるウリではない。シーケンスフレーズを中心としながら、イントロダクション的に鳴らされる#3 “Maya Ruin”とそれに続く、霞がかったアルペジオから一気に深海へと突き落とされるような音の洪水と情報量がまばゆい#4 “In Dreams”では彼らがシューゲイザーを違う方法論から導き出そうとしている恍惚さが感じられるし、#8 “The Three Stigmata Of Palmer Eldritch”はアルバム随一の大曲であり、ポストメタルバンドとしての彼らを再確認できるだろう。数秘学に傾倒するWillは、3という数字がConstantsに与えられた特別なものだと発言しており、この楽曲への彼らの力の入れ方も曲名から伺えるだろう。
また、国内盤限定トラックとして収録されている#9、#10はいずれもJesu/GodfleshのJustinによるリミックス音源であり、よりエレクトリックでプログレッシブなエレクトロとしてのConstantsの一面を垣間見ることができる。特に”Your Daughter’s Eyes”のリミックスはボーカルのみを切り出してフィーチャーすることで、見事に楽曲の新たな一面を切り出しており、とても鮮烈だ。
Caspian、Explosions In The Skyのようなアトモスフェリックポストロック、Russian Circles、Pelican、Jesu、If These Trees Could Talkのようなポストメタルを愛聴するリスナーには是非チャレンジして欲しいバンドだ。
この後の彼らはシューゲイザーへの回帰的傾倒を見せ始めるので、個人的にはこのアルバムが一番美味しい時期のものだと思っている。