disc review湿度感のある青みは味付けに、多国籍のポップネスを散りばめて
Youth NovelsLykke Li
生まれはスウェーデン。ミュージシャンの父、写真家の母を持ち、6歳から5年間ポルトガルの山頂にて暮らし、その後もリスボン、モロッコ、果てはネパールやインドと様々な土地で生活し、自身もミュージシャンへと成長。出生の時点でかなりのインパクトだ。本日のレビューはスウェーデンの女性シンガー、ソングライターのLykke Li(リッキ・リー)の1stアルバム。ジャケットから感じる退廃的、殺風景な印象とは裏腹に、バラエティに富んだ、彼女の挑戦と実験が感じられる一枚だ。
本作は、スウェーデンのインディーロックバンド、Peter, Bjorn and Johnのビョーン・イットリングによるプロデュースによって発売される。メディアからの評価はおおよそ好評であったようだ。リッキ・リー自身のフェイバリットとしては、ビートルズ、ストーンズから、ニール・ヤングのようなロックのビッグアーティストから、イギリスの名門4ADのThis Mortan Coilやアメリカのアイドルグループ、The Shangri-Lasなどのポップアーティストを挙げており、彼女自身の傾向としては、バンドサウンドを好むというよりは、歌が立った音楽を愛聴しているように感じられる。
ボーカルはコクトーツインズから、エリザベスが担当。
さて、このように幼少の多感な時期に周りを取り巻くめまぐるしい環境に刺激を受け、ポップソングを聴いて育った彼女の作る音楽とはどのようなものなのか。
#1 “Melodies & Desires”はオルガンとストリングスの奏でる浮遊感あるサウンドに彼女のしっとりとしたポエトリーリーディングの絡むイントロダクション・トラックとなる。続いて流れる#2 “Dance, Dance, Dance”では、ジャズバーに迷い込んだかのような陽気なサックスと、ステップを踏むようにして、幼い香りを残した彼女の歌声とが重なる。#5 “My Love”はアダルトなオルガンとアコースティックギターの音色が微熱を持った吐息となって耳元から流れる。サビでの男性ボーカルのコーラスワークも埃臭さがあって良い。#7 “Little Bit”などは、曲名のとおり、音要素の少ないエレクトロトラックの繰り返しに彼女が歌を重ねていく。
アルバムを通して感じるのは、これを僕の知っている北欧音楽(どこかひんやりとしていて荘厳なイメージ)として当てはめるには少し違和感のある音楽だったというところ。あくまでも、スウェーデン出身であり、ずっと北欧暮らしではなかった彼女には、訪れた様々な国の音楽性やビート、リズム感が混合しており、そうした下敷きと、オールドなポップミュージックを愛聴する彼女なりの、埃臭い(悪い意味ではない)アレンジ、そして、しっとりとしたメロディセンスとが調和しており、国境を越えたノーカラーのポップミュージックを生み出すに至っている。これが2008年リリースと言うのが驚きだ。彼女が幼い頃から聴いて育ってきた、ビッグスターたちのうちの一人にでもいるような、過去への溶け込み。実力があって、狙ってではないとできない作風だろう。