disc reviewカナダ発!メロディックタッピングエモの最新型
What GivesGulfer
僕のレビューをよく読んでくれている人や、エモ、ポストハードコア界隈のリスナーにとっては夢のようなフェス、ArcTanGent Festival。american footballやSikth、日本からもtoeやMONO、このフェス限定の再結成となるMeet Me In St.Louis(個人的にはコレが一番アツい)など、実に錚々たるメンツが顔を連ねる。僕がレビューしたバンドだけでも、Meet Me In St. Louis, La Dispute, Caspianと3バンド数え上げることができることからも、僕と近い好みを持ったリスナーにとって如何に正中を射抜いたフェスなのかがわかっていただけるかと思う。こういったポストロック周辺ジャンルのビッグネームが名を連ねる中、同じステージに立つのが、今回紹介する、カナダのモントリオールを拠点に活動する、4人組タッピングパンク、ポストハードコアバンドGulferだ。
彼らの音楽は、いわゆるmalegoatやCastevet、Algernon Cadwalladerのような、テクニカルで耳触りの良いクリーンギターと、ドライビンなパンクスタイルの楽曲との複合型である。また、キラキラしているが、それだけでないキャッチーさとひょうきんさを感じるフレージングはWot Gorilla?やColourのようなマスポップ方面からのアプローチもあるだろう。また、曲によってはスローテンポでアンビエント的にトランペットを導入したインストトラックもあったりして、american footballやJoie De Vivreあたりを想起させる。
ひとくくりにまとめるならば、エモリバイバル。しかし、その一角をしっかり担うだけの実力は備わっているだろう。#1 “Bloody Looking”はイントロのエモーショナルなコードワークが郷愁を誘い、続くシンガロンメロディも含めてオープニングトラックとして実に気持ちがいい。#5 “Trim It Short”は、序盤のツインタッピング、メロディックに疾走する中盤、トランペットとシンガロンで男臭くまとめ上げる終盤と、彼らの多面的な魅力が味わえる一曲だ。また、#7 “Almost Sterling”はミドルテンポで美麗なアルペジオとタッピングがきらめく水面のようで、汗臭く、エモーショナルな曲が多い本作に涼しげに華を添える。と思いきや後半はいつものGulferのしゃがれたボーカルが叫び出すあたりのアンバランスさも絶妙。また、今作はボーナストラックとしてTopshelfよりリリースされた7 inchスプリットに提供した楽曲も収録されており、ありがたいところだ。
リリースは日本のポストロックリスナーの良心、Friends of Mineから。ここからリリースされたバンドとしては、Totorroも冒頭のArcTanGentへの出演が決定しており、耳の肥えたリリースには舌を巻くばかりだ。これら2バンドにとどまらず、フィリピンのインストポストロックtide/edit、イタリアのモダンスタイルエモJune Miller、最近話題のYvette Young嬢のバンド、Covetなど日本では無名のバンドから待望のリリースまでしっかりとカバーしており脱帽。全体的に統一感のあるジャケットワークと、紙ジャケでのリリースという点もこだわりが感じられ、センスも良く収集欲を掻き立てられる。これからも、激情系ハードコア周辺のTokyo Jupiterや、アヴァンギャルドミュージックを得意とするVirgin Babylonなどと並んで、日本の良質レーベルとして国内にも止まらず海外へもその活躍の場を広げていってほしい次第だ。