disc reviewプログレッシヴに動顚する狂気、緋色の地下室で
何でも無い凶器惑星アブノーマル
日本の二人組ユニット、惑星アブノーマルの1stミニアルバム。いろいろな一面を持つ彼女たちであるが、このアルバムはその中でも狂気的な一面を切り取っており、コンセプトアルバムと言ってもいいかもしれない。ボーカル・アレックスたねこのインパクトたっぷりな歌唱やおどろおどろしい世界観が目を引くが、音楽的にはキャッチーで、音大出身ということもあり楽曲構成にも凝った一面が見られる。
昭和アングラ歌謡のエッセンスと切れ味の鋭いパンクサウンドを軸に目まぐるしく速度と雰囲気を変える#1「ぬすっと」。コミカルさと狂気が共存するアングラ快楽濃縮空間の幕開けである。#2「フラレ唄」は性急なビートに早口で捲したてるこれまた脳を捻転させるようなアングラパンクであるが、急にスカ風の落ち着いたパートが挟まれるなどプログレッシヴな曲展開も楽しめる。#3「月夜海水浴」はエッジの効いたギターと儚げなピアノフレーズが高速で叩き込まれるが、突然チャペルで流れていそうなハッピーでクリーンなパートが挟まれる展開には唖然とすることだろう。実話を基にした#4「犬」は哀愁と怨念だだ漏れでしっとりとエモーショナルに進む曲。前曲までよりは素直な構成になっているが、サビ終わりの全てが崩れていきそうな展開や掻き毟るようなギターソロはやはり特異。シンフォニックなイントロで幕を開ける#5「神様ごっこ」はトチ狂ったフックまみれのメロディが聞ける前半パートから、エキゾチックかつ猟奇的に嘆息を吐き続ける中盤パート、そして怨念を捲したてる後半へとの曲展開が見事で、その全てが狂気に満ち溢れている。その色濃い世界観に脳内物質噴出必至。#6「転生」ではスピリチュアルな雰囲気になり、ボーカルも急に歌姫風に歌い上げる最後にして異色の曲。ギターソロ中の壮大な展開は少しばかり90年代ヴィジュアル系を思わせる。クワイア風のコーラスも楽曲に得体の知れない色を付けている。
アルバム一枚に一本の強烈な軸が確かに通っている一方で、一曲一曲を取っても様々な素養が組み合わせられており、聴き込めば聴きこむほど飽きのこないアルバム、という不思議な、そして熱狂的ファンを生み出しそうな作品と言えるだろう。目まぐるしく変わる曲調が不安定で狂気的な精神を描き出す歌詞や歌唱とマッチしているのもポイントで、凝ったことをしていながら必然性があり、快楽的なカタルシスを生んでいる。目まぐるしく変わる狂気の音世界を体感してほしい。