disc reviewスクリーモのニュー・スタンダードを築きあげた、瑞々しい声と叫び

tomohiro

SAOSINSaosin

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スクリーモというジャンルを語るにこのバンドを外すことは到底無理だろう。そのあまりの影響力に、スクリーモシーンにおいて、Saosin以前、以後という言葉が用いられるレジェンド、Saosin(セイオシン)。初代ボーカルAnthony Greenのバンドへの復帰がアナウンスされ、ついに来週、復帰第1作となる”Along The Shadow”をリリースする。 それに合わせて、一度おさらいの意味も兼ねて、今回は1stフルアルバム、”SAOSIN”のレビューとしようと思う。

僕は正直なところ勘違いしていたのだが、1stアルバムの時点で、既に初代ボーカル、Anthonyはバンドを去っており、二代目ボーカルのCove Reberを迎えての作品となる。Anthonyはその淀みないハイトーンボーカルとワガママなシャウトを持ち味としていたが、Coveもそれに負けず劣らずの、芯と伸びのある力強いボーカルでSaosinの栄華を形作った。

Anthonyはその後、Circa Surviveで音楽活動を続け、Saosinも、Coveの脱退とともに一度動きを止めていたが、Dance Gavin Dance, ex-Tides of ManのTillian Pearsonを迎えて、数曲デモを公開したりと、それぞれに並行して活動は続けていた。

Saosinを語る上でもう一つ外せないのが、楽曲の屋台骨を支えるDr. Alex Rodriguezの強靭さだろうか。彼のドラミングは、正確無比かつブレのない連打のフィル、疾走感と重厚感の両立が気持ちいいスネアのバランス感に優れており、実に聞きごたえがある。 Saosinには、Anthony在籍時代の音源、”Translating the Name”にのみ参加した、Pat Magrathというドラマーもいるのだが、こちらも正確無比かつダイナミックな技巧派ドラマーであり、彼らはドラマーに恵まれたバンドであると言えるかもしれない。

AnthonyとPatの参加する、Saosinの名曲、”Seven Years”。ThursdayFinchのような初期スクリーモの血もまだ色濃い作品で、ギターのシャウトも聞ける。

彼らが”SAOSIN”で打ち出したのは、メタリックかつテクニカルながらもライトで聴きやすい音像と、ハイトーンのクリーンボーカルのみに絞ったキャッチーかつエモーショナルなボーカルワークという、彼ら以降頻出することになるスクリーモの様式美の一つだった。 #1 “It’s Far Better To Learn”ではフィードバックとともに刻まれるハイフレットのミュートリフがオープニングに相応しい期待感を煽る。サビでのダイナミックな開放感は彼らの持ち味、お家芸だ。スピード感も十分な#3 “It’s So Simple”や#6 “Follow And Feel”、ドラムワークの美しさが傑出している今作のメイントラック(と僕は考えている)#4 “Voices”など、キラートラックを前半から押し出していく。後半でも勢いは衰えず、全体として、素晴らしい1曲があるというよりは、平均して非常に高いクオリティの楽曲を揃えている。

彼らの2ndアルバムは、1stと比べられ、その出来栄えを揶揄されることもあるように思うが、そもそも、1stで、確立したものが非常に大きかったということなのだと思う。

結成から13年を経て、ついにオリジナルメンバーで繰り出される、次作。彼らが打ち立てた大きな壁を越えられるのだろうか。期待は高まるばかりだ。

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tomohiro

エモを中心に枝葉を伸ばして聴いています。アナログな人間でありたいと思っています。野菜がたくさんのったラーメンが好きです。

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