disc review熟れて落ちた果実は、異形の芽吹きに強張る
過誤の鳥明日の叙景
2015年結成、秋葉原の5人組バンド、明日の叙景。彼らの音像は、近年ハードコア界隈を中心に見られる、ポストブラック、シューゲブラック、あるいはネオクラスト等の他ジャンルとのクロスオーバー化の渦中で光る存在だ。彼らの音楽を聴いていると、彼ら自身に近年のブラッケンド(ブラックメタルナイズド)の流れに取り付こうという強い意志がある、というよりは、彼ら自身の聴いてきた音楽のミックスによるマッシュアップが、自然とこの形になったと考えるのが、一番しっくりくる形なように思える。こういったバンドの代表的な例を挙げるならば、それはもちろんDeafheavenであったり、8月の来日も決定しているKrallice、あるいは昨年の来日も記憶に新しいNo Omega等枚挙に暇はないのだが、そういったエクストリームミュージックとしてのポストブラックシーンに、彼らが日本から現れたことは、非常に我々にとって誇るべき事態であると思う。直近に大きなムーヴメントを巻き起こしているジャンルに、リアルタイムで日本からバンドが参入できたことは、これまであまりなかったように思えるからだ。そして、それが明確に意図されたものでない(と僕は思っている)という偶然も、彼らの目覚ましさに対する絶妙なスパイスになるだろう。
彼らの音楽を聴いていると散見されるのは、日本の音楽シーンの中で生まれてきたエクストリームミュージックたちからの影響だ。まずは言うまでもなくenvy, heaven in her arms等の轟音的激情のもたらす圧倒的な音像、DIR EN GREYのVo. 京のような変幻自在なスクリーム、シャウト、グロウル、COALTER OF THE DEEPERSからの影響を語る、ドリーミーなシューゲイジングギター、そして何よりも、エモーショナルに疾走する、Gauge Means Nothingの再来レベルの感動を僕に巻き起こしたギターメロのセンス。
筆舌に尽くしがたい、のっけからのブラストとスクリームによって呆然としている間に、ベースのブレイクと共に、突然に訪れるエモーショナルな疾走パート、クリーンパートからなだれ込むドリーミーなブレイクダウン、どこを取っても凄まじいマスターピースである#1 “石榴”、イントロの不穏なアルペジオから飲み込む巨大な蠢きを語りからグロウルまで多彩なボーカルを使い分け、表現する#2 “名付く暗涙”、スローテンポと凄惨なコードワークを駆使する残虐性の高い#3 “自己に対する無関心が生んだ他人への共感”、それとなくダサいリフと組み合わせられる叙情的な進行、美麗なメロディがロシア方面のネオクラストの香りを感じさせ、ボーカルのハードコア的ヘタウマアプローチや、クリーンにしっかり落としこんでからブチあげる大団円的演出も見事にあやつる#4 “幸福な旅の人へ”、アウトロ的ピアノトラックの#5 “過誤の鳥”(このトラックにアルバム名を持ってきたのがまた憎い)はノルウェー産ダークシューゲイザーSerena Maneeshに落涙した時の感覚を思い出した。
生まれるべくして生まれたとしか言いようがない、混沌の音楽的背景から産み落とされた明日の叙景というバンド、今後の国内のブラッケンドシーンで間違いなく存在感を放っていく逸材になるだろう。