disc reviewビロードの尾を引き踊る、黒き金剛石に覗く割れ目

tomohiro

part of graceLillies and Remains

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バンド名はBauhausの曲名から。クールかつ妖艶。泣く子も黙る漆黒のジャパニーズポストパンク、Lillies and Remainsの現在へ続く始まりとも言える1stアルバム。僕がこのアルバムを手に取ったのは、高校生の頃だった。当時、片田舎であった地元の町にTSUTAYAが出来、機会を見つけては陳列棚に張り付いていた頃だったと記憶している。歌モノ、特に下北系のギターロックばかり聴いていた僕が、なぜこの作品を手に取ったのか。ケースを開いたら、ライナーノーツが付いていて、音楽のCDなのに宗教観みたいなものが細かい文字で延々語られていて、異質ながらも惹かれるものを感じたのだった。

 

暗鬱な歌い出しの#1 “ARGO”から幕を開けるこのアルバム、ひたすらにダークなこの曲の序盤は、ある種呪詛のようにも感じた歌詞の羅列だったが、突然にして視界が開けるように、「キレー」なサビメロのコーラスが現れるのだ。大げさに言うならそれは賛美歌のようにも聞こえた。続く#2 “The Fake”は裏打ちのギターが小気味良く体を踊らせる。続く#3 “Poles Apart”はリフが強烈な一曲。リフ、メロディのキャッチーさ、飽きさせない展開等の要素をバランス良く含んでいるのが、先行シングルとして発売された#4 “Moralist S.S.”であり、なるほど、先行させてリリースするのも頷ける。マイルドなインストトラック#5 “Alice”を挟んで、#6 “Wreckage”もかれらの持つ、ダークさとブライトさの二面性のうち、ブライトな面を押し出した曲で、陶酔感を得られる「I know…」を繰り返すサビが印象的だ。シックなダンサブルナンバー#8 “Unmade Schemer”は、サビで下降フレーズを繰り返すベースがよく耳に残るだろう。#12 “Upsetter”はFranz Ferdinandっぽいクランキーなイントロから一転、浮遊感のあるメロディとギターワークが目を引く。リミックス2曲のうち、”Wreckage”のリミックスはVampire Weekendが手がけているのも押さえておくべきポイントだろう。

 

何よりも驚いて欲しいのが、これほどに””洋楽””然とした、シックでクールな音がここ日本で鳴らされていることである。スタイルとしてのポストパンクだけでなく、精神性にも深い根をもつのが彼らの音楽の魅力である。

見事にゴシックなポストパンク/ニューウェーブを完成させ、同じく日本のオルタナ界の先鋭であるTHE NOVEMBERSPLASTIC ZOOMSなんかと一緒に一つのムーヴメントを作り出しているLillies and Remains。その評価を再度確認するためにも、ぜひこの1stアルバムを聴いてみて欲しい。

 

 

WRITER

tomohiro

エモを中心に枝葉を伸ばして聴いています。アナログな人間でありたいと思っています。野菜がたくさんのったラーメンが好きです。

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