disc review恨みと怒り、悲観と諦観、轟音と静寂の間で

shijun

渦になるきのこ帝国

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東京の4人組バンド、きのこ帝国のインディーズ1st。最近ではまた違った音楽性を模索しているようであるが、この頃はポストロック、シューゲイザーの影響を受けた轟音オルタナな楽曲を中心にプレイしていた。Gt.Vo.佐藤千亜妃の女性ボーカルしたスモーキーで気だるい歌声が轟音の中で映える。

シューゲイザー直系の繊細で甘美に流れ落ちる轟音が心地よい#1WHIRLPOOL』。神聖ささえ感じさせるほどのギターの音色の中でリフレインする「仰いだ青い空が青すぎて」というフレーズがなんとも言えない無常観を煽ってくれる。しっとりと紡がれる空虚なギターフレーズ、呼吸の音が入り轟音炸裂、完璧なイントロの#2『退屈しのぎ』。静と動。びっくりするほど気だるいAメロ。曇り空の昼下がりの微睡みのように虚しく寂しく積み重ねつつ、徐々に徐々に波のように押し寄せる轟音ギター。ラスサビ前のヒリヒリとしたノイズ。ラスサビの風のようなノイズ。音響的バンドサウンドが詞とともに曲の世界観を強固にしていく。静かめな二曲の後、アップテンポなオルタナティヴロック、#3『スクールフィクション』へ。切れ味鋭いリフが楽曲を引っ張っていく様はNUMBER GIRLの影響も感じさせる。しかし激しさや楽しさとは割と無縁で、アップテンポで切れ味鋭いながらも根底にあるのはどちらかというとやはり、虚しさや寂しさ、もがき苦しむ様と言ったネガティヴな感情であるように感じる。タイトルも目を引く#4Girl meets NUMBER GIRL』もこのアルバムの中ではアップテンポな楽曲。ぶつ切りに形容詞と動詞を連発する歌詞が心に刺さる。海の音のみをバックに歌う歌い出しが印象的な#5The SEA』は再び暗めでスローテンポの楽曲。最後にはやはりシューゲイザー直系の轟音も聴ける。個人的にこのアルバム一番のポイントだと思うのは#6『夜が明けたら』。儚げながらもどこか前向きな感情を想起させる不思議なアルペジオに、弱々しい迷いを感じさせるようなボーカル。一見優しそうな楽曲の中で繰り返し使われる「復讐」というモチーフ。いや、そのモチーフを中軸に、歌詞全体としてひどく泥臭い悲しみと怒り、そしてそれに対する諦観のような感情が溢れているのである。そしてネガティブな渦の中で、明けようとしている夜に救いを求める。そして曲中、本当に夜が明けるのである。この夜の開け具合の見事さは、ぜひ聴いて確かめてほしい。最後は骨太なベースが楽曲を引っ張り続ける8分越えの美麗な楽曲、『足音』。終盤の「ラララ」のコーラスワークが美しく、その美麗さに浸っていると突如暴れ出す轟音。完璧。

人間はいつまでも戦い続けられる生き物ではない。だから、この路線をそのまま貫き通し続けることが難しかったのは仕方ないし、最近のポップス路線の楽曲もそれはそれで彼女たちにしかできない表現をしているのも確かだと思う。しかし、それでも私は、この頃のきのこ帝国の幻影を追い続けてしまうのである。逆に、最近の曲しか聞いたことないという人たちも、ぜひ一度、この頃のすさまじいきのこ帝国の姿に触れてみてほしい。

WRITER

shijun

ポップな曲と泣ける曲は正義です。female vocalが特に好きです。たまに音楽系のNAVERまとめを作ってます。なんでも食べます。

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