disc review幻想の異国を漂う、ジャパンインディーの異端児

shijun

幻聴と幻想の現象ピロカルピン

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日本のオルタナティブロックバンド、ピロカルピンの2nd。スピッツ草野マサムネに絶賛されたり、100円シングルのリリースを行ったりと話題を集めていた頃の作品である。The CureなどのUKオルタナの影響を受けたシンプルなアンサンブルを基調としつつ、随所で日本人らしい湿ったテイストも見せる音楽性。アルバムタイトルにも有るようなファンタジックな要素も有るが、あくまでシンプルな中にエッセンス的に浮世離れした煌めきが含まれている、という感じである。Vo.松木 智恵子の個性的な歌声とメロディセンスには日本でもUKでもない異国の情緒も感じる。

柔らかな光のようなアルペジオから始まる#1「幻聴と幻想の現象」。始まりを感じさせるキラキラしたコードワーク。緊張と穏和が同居する不思議なサウンド。ふわふわしたメロディがサビに近づくにつれどんどんキャッチーになっていく#2「誕生前夜」。日本神話をモチーフに取り入れた歌詞も面白い。ギター同士の絡みが美しく、そこに一本筋を通すシンプルなビートが心地よい#3「若気の光」。ハッとさせるような意外性を持つサビメロも注目。このアルバムの中でハードな和音リフも聞けるアップテンポな#4「シェイクスピアのダイアリー」。コードワークもシンプルながら異彩を放っているし、メロディもピロカルピンの個性全開である。縦横無尽にディレイの聞いたギターが暴れまわる爽快感と多幸感抜群の#5「虹の彼方」。歌とギターが並列に戦うようなバンドにしたいと言うGt.岡田の信念をまさに体現している一曲。かなりギターを弾き倒している中でも確固たる存在感を示す松木のボーカルがさらなる多幸感を呼んでいる。「今夜はブギー・バック」みたいな曲がやりたい、と作られたらしい#6「飛行少女」。ブギー・バックっぽいかと言うとピロカルピンらしい解釈が多分に入っており難しいところであるが、メロウでファンキーな雰囲気を重ねていくリズム隊には影響を感じることもできるか。そんなリズム隊の上に乗るのが伸びやかなボーカルと、ゆったりしたテンポの中でも物足りなさを感じさせず、かといって曲の雰囲気を壊さずの上質なギター。飛行と言うよりは浮遊し漂っているような感覚。気持ちいい。締めの#7「トゥルルル」はやや趣向を変えたアコースティックな楽曲。

彼女たちはこのアルバムの後メジャーデビューするも、現在ではインディーズに戻っている。ベースとなる音楽を持ちつつも、歌声やメロディ、詞世界を始めとした独自性もかなり強く、UKインディーロックに影響を受けた日本のバンドの中では珍しく確固たる個性を持っていたように思う。それは確固すぎたのかもしれないと思う事もある。確固過ぎる個性故に安定した立ち位置を獲得することが難しかったようにも思えるのだ。そのハードルを飛び越えるための、6枚もの100円シングルだったのかな、とも思う。だが、それは一方で、未だに後継者が現れていないことも意味している。「名前は知ってるけど……」と言う人はぜひ一度触れてみてほしい。シンプルなアンサンブルの谷間に新鮮なせせらぎを見つけることができるはずだ。

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shijun

ポップな曲と泣ける曲は正義です。female vocalが特に好きです。たまに音楽系のNAVERまとめを作ってます。なんでも食べます。

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