disc review頬を刺す北の風と、初春に焼け付く歌う叙情

tomohiro

Sore EyelidsSore Eyelids

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もしかしたらギターの音で既にピンときている人もいるのではないだろうか。本日のレビューはSore Eyelids。泣く子も黙る北欧激情最高峰、Suis La LuneのGt/Vo. Henningのサイドプロジェクトである。(セルフタイトルの1stのレビューです。)先に断っておくべきこととして、このバンドは、ハードコアではない、ということである。正直、演奏自体はほぼSuis La Luneで聴くことのできるもので、(スリーピースで、Henningがギターを弾いている以上、当たり前かもしれないが。)特徴的なアーミングを多用する奏法と、空間系できらびやかに彩るクリーントーンには、激情愛好家の諸兄は懐かしさを覚えるだろう。しかしもって、このバンドの面白いところは、ボーカルが叫んでいないところにある。Suis La LuneVia Fondo、あるいはSore EyelidsとのスプリットをTokyo JupiterからリリースしているTrachimbrod等、北欧の激情を特徴付けてきたのは、感情に任せた叫びと、それと相反するような流麗で情緒的なギターワークである。

そして、そういった音楽性を編み出してきた背景に存在していたのは、スウェディッシュポップに代表される、ポップスのバックグラウンドなのではないだろうか。僕は北欧の激情を聞いていると、日本人のやっている激情系ハードコアと近いものを度々感じるのだが、それは、日本人のバックグラウンドにも、演歌や歌謡曲のようなクサメロのポップスが存在していて、そこで共感のようなものを感じるからではないかと思っている。

何が言いたいかというと、ポップスがバックグランドにある音楽と相反する叫びのようなハードな要素が、激情という音楽の面白いところなのだと思うという話である。

では、相反する叫びと除き、そこに叫ばないボーカルを取り入れたSore Eyelidsというバンドは何を生み出したのか、というのがこのバンドを聞く上で面白いところなのではないだろうか。

 

#1 “I Wish I Could Believin’ You”。聞いたことのあるフィードバックノイズから始まって、バシャバシャと疾走する様は激情さながらだが、やはりこれはボーカルではなくギターロックなのだと再確認するうろんげなボーカルが初めは意表をつくだろう。地味にサビ前のギターフレーズがすごく美味しいのでそこに注目して聴いてほしい。0:54あたりから。#2 “Can’t Breathe”も同様に疾走感が特徴的だが、歌に合わせてギターをクリーントーンに切り替えたり、アルペジオオンリーでの落とすメロディなどなど、歌モノとしての工夫が随所に見られるあたり、一応当人も差別化の意識はあるのだろう。#3 “Over”は歌メロの裏のアルペジオに、ノルウェーのDrapeっぽいメランコリックさが感じられてグッド。

また、#8 “365 Days of Nothing”はイントロのキメが日本の下北系っぽい雰囲気にあふれていて、親近感がすごい。本当に下北系バンド聴いてそう。もちろん、コード進行は北欧激情お決まりのエモクサいもので、よくこんな”泣き”をフルテンで引っ張り出してこれるなぁという感嘆も湧く。

基本的にアルバムを通して、疾走感を重視した、爽やかギターロックなのだが、やはり激情出身であることをひしひしと感じさせるジメジメ感、メソメソ感は滲み出てきている。#9, #10あたりがまさにそんなトラックで、Henningは普段どれほどエモい気持ちを抱えて生活しているのかと不安になる。エモくても長生きしてほしいですね。

音源はbandcampで買えます。bandcampのキャンペーンで、売り上げを対トランプで頑張っている団体に寄付するというものが金曜の正午(太平洋時間)に始まるらしいので、気になる方はついでに加担してみるのもいいのではないでしょうか。(HenningがFacebookで言ってたことをそれっぽく和訳しただけなので詳しくはbandcampのエントリをどうぞ。https://daily.bandcamp.com/2017/01/31/bandcamp-human-rights/)

フィジカルは、昔入れてた国内のディストロもあったみたいですが、売り切れてしまっているみたいなのでデジタルで買うのが早いかと思われます。

Suis La Luneファンはチェックする価値ある一枚です。当然のことながら曲がとてもいいので、気になった方も是非買ってみてください。

WRITER

tomohiro

エモを中心に枝葉を伸ばして聴いています。アナログな人間でありたいと思っています。野菜がたくさんのったラーメンが好きです。

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