disc review沸騰しない、氷点下の立体、転がる

tomohiro

Open Your EyesWBSBFK

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音楽としての骨格すら限界近くまで削ぎ落とし、今にも折れそうなスリムさなのに、いざ触れてみるとそのなんと強靭なことかと驚かされる。名古屋のスリーピースポストパンク、WBSBFKの1stフルアルバム。活動のごく初期は侘寂風景の名前で活動しており、今のバンド名もそう読む。名前は知っていたが、ライブを見たことがなかったバンドの一つで、まだ表記が変わる前のライブ映像を少し見て、THE NOVEMBERSリスペクト系のドロリとしたギターオルタナだという認識しかなかった。そんなリスペクトが届いた形としての、THE NOVEMBERSLilies and Remainsとの共演や、国内若手オルタナ・ポストパンクを中心としたコンピレーション、PROVOKEの主宰など、精力的に身のある躍進を続けてきた彼らだが、先日幾何学模様のジャパンツアーの際に、ついに初めてライブを見ることができた。驚いたのは轟音、爆音とは無縁のタイトな演奏と音色、そして点で最小限に置かれながらも非常に効果的に機能する白眉なリフの数々。何よりミニマルでクールなのに驚くほど踊れるリズム隊のストイックなアンサンブルには、彼らに対する僕の今までのイメージを覆されるものがあった。

前作「I」ではKlan Aileenのメンバーによるレコーディング&ミックスで非常にバシャリとしてナードな仕上がりであったが、今回はそこも一転クリアで無駄のない、無菌室のような音の仕上がりだ。この辺りのシンプルかつ清潔感のあるルックスやサウンドを作り上げるのは、デザイン、アートワーク、MVに至るまで、メンバーであるTsuchiya。一貫したイメージの形成は、ポストパンクという背景を考えるにあたっても、非常に意味の強い行いであると言える。

 

シンプルなビートと跳ねるベースの構築の隙間に落とし込むようにして挿入されるギターフレーズは、コード進行という概念をすっ飛ばして楽曲を構築しているゆえに、予想がつかずついつい次の展開が気になる。胡乱に呟かれる言葉の数々も、非常に示唆的と見せかけてなんのことはない単語の集まり。人を食ったようなとはまさにこのことかと思うような、無邪気な狡猾さが覗く。そしてほとんどの曲が2分前後で、ベルトコンベアを流れる立体を思考の外で眺め続けているような、淡白で終わりのない事象の羅列。そしてそれは意外と心地よい。

この淡白な音楽に秘められた可能性をぜひ感じ取ってほしい。それはきっと一曲聴くだけじゃピンとこなくて、たくさん聴けば聴くほどに、麻薬のように体に蓄積され、その存在を大きくしていく。

WRITER

tomohiro

エモを中心に枝葉を伸ばして聴いています。アナログな人間でありたいと思っています。野菜がたくさんのったラーメンが好きです。

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