disc review清涼に揺れる、彼、彼女らの幻影とともに
A Different Kind of FixBombay Bicycle Club
2016年末に惜しくも活動を休止した、イギリスのエレクトリック・インディ、Bombay Bicycle Clubの3rd album。この後の4th albumでは、全英一位を獲る好セールスを記録するが、今回は3rd。このアルバムとの出会いは、apple musicのサジェストから。確か、フジロックの配信を見た余韻で、MGMTの”Oracular Spectacular”を聴いていて、その関連に現れたのだった気がする。最近は、あんまりフィジカルを買うことがなくなってしまい、デジタルに頼りがちだが、apple music, amazon, bandcampなど、どれも機械的ながらもサジェストの雰囲気が違うのが面白い。なんとなく、apple musicは登録されているジャンルとリスナーの傾向、amazonは何と買われているか、bandcampはバンド側の設定したジャンルで一括り、のようなイメージがあるが、実際はどうなのだろう。
Bombay Bicycle Clubは、北欧ポストロックの空気をまとった、清涼でややナイーブな演奏とボーカル、そしてそれを支える屋台骨のダンサブルさが特徴だろう。
リリースごとにそのカラーを変えてきており、
この時期は、Surfer BloodやHippo Campusなんかに言えるような軽快なギターポップ
現時点でのラストアルバムであるこの時期にはワールドミュージック的なシーケンスの入ったエレクトリックなダンスチューン。
と変貌してきている。で、今回の3rdはこれらの間の時期に位置するわけで、これが実にわかりやすく、エレクトリックな要素を持ったギターポップ/インディーロックに仕上がっていて実にちょうど良いのだ。そう、僕は間をとったくらいの時期のちょうどいい音楽が結構好き。
#1 “How Can You Swallow So Much Sleep”がすでに本アルバム屈指のキラーチューン。よく伸びるハイトーンボーカルのハミングに同調するように、アコースティックな弦鳴りのギターが重なり、力強いビートが導入される。冷たさを持ちながらもしっかり踊れる、Bombay Bicycle Clubの気持ち良さがよく出ている楽曲だ。 #3 “Your Eyes”は前のめりなベースラインがグイグイと他パートを急かすアッパーチューンで、ドラムの裏打ちが心地よい。#4 “Lights Out, Words Gone”はもちもちと弾むこれまたベースの上で、クリーンギターのリフレインが軽やかに鳴る。しかしその一方でボーカルセクションは非常におぼろげで、霧に沈む町で場違いに鳴るFMのような凛とした趣がある。#5 “Take The Right One”はファジーなバッキングギターとリバーブの効いたクリーンギターが残響するコーラスに埋もれるインディポップ。これだけツインクルなことも淡々とこなせるあたりに、バンドの底力が見え隠れする。#6 “Shuffle”は切り刻まれたピアノシーケンスとハンドクラップが陽気に踊る、Passion Pitを思わせるウォームカラーのダンスチューン。
#8 “Leave It”はクランチなミュートフレーズでの静とサビでジューシーに弾ける飽和サウンドの動のメリハリが目に明く藍色(サカナクションのというより、その言葉の持つイメージを当てはめた感じです)。#11 “Favorite Day”はキリッとしたピアノのフレーズが背筋に水滴を落とす、涼やかな一曲。精緻なサウンドプロデュースが光る曲でもあり、そのあたりも見所か。本編ラストとなる#12 “Still”はスロウコアに肉薄する落涙要素を孕んだ涙目メロディとひび割れたピアノの弾き語り。湿った感情を丁寧に音楽に塗り込めたような、抑圧した感情が、鳥肌を立たせる。
#13, #14は特典トラック(フィジカル坂には未収録っぽい)。軽やかなポストロック調インディの#13もさることながら、#14の”Lights Out, Words Gone”のダブアレンジが秀逸。ここまで露骨にダブにできるのかという驚きと、完成度から感じる音楽的教養の深さは、さすがJack Steadman、ソロ活動の初作が日本のジャズ喫茶からも着想を得たジャズフィーチャーと意欲的なだけはある。
北欧的冷たさとエレクトロの高揚感をインディロックベースでハイレベルにパッケージした今作、STRFKRの最新作がはまった人なんかにはもろにジャストではないだろうか。順序が逆というのはナシの方向で。