disc review果てなき紺青、先導の灯火なお明るく

tomohiro

Infinite Granitedeafheaven

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deafheaven、嗚呼deafheaven。ポストブラックの新たな地平を切り開き、時代の先導者として先陣を切りシューゲブラック、ブラックゲイズの躍進をもたらした彼らは僕の憧れのバンドの一つである。彼らのために初めてフジロックの地を踏み、まさかの一大対バンとなったEmperorとの来日ツアーも見に行った。重厚な音の洪水はそこに散りばめられたきらびやかな輝きを持って鋭利な刃物の波のように襲い来、闇夜をつんざくスクリームが脳のすべての幸福物質をさらっていく。そんな彼らがついに最新作、『Infinite Granite』をリリースした。

 

アルバムのリリースアナウンスとともに先行公開されたのは”Great Mass of Color”。

これを聞いた時の僕の感情はどう表現するのが正しいだろうか。声になっているのかなっていないのかわからない、もはや喚き声に近い何かを僕は発した。水面を乱反射するような凜とした鳴りのクリーンギター。包み込むようなリバーブ。そこにいたのは僕が知っていたdeafheavenではなかったのだ。

前作、『Ordinary Corrupt Human Love』は正直に言ってしまえば”置き”の作品のように感じる部分もあった。『Sunbather』で大開花した彼らのシューゲイザー+ブラックメタルは、次作『New Bermuda』でさらに深くメタルとの交わりを果たし、その深く沈むような懐に僕はいたく感動した。彼らには常に期待を超える何かが求められたいたように思う。それはジャンルの先駆者たる者に課せられた枷でもあったのかもしれない。然してリリースされた『Ordinary Corrupt Human Love』はどこかこれまでの作品の期待を超えない範疇でのなぞりのような感覚を覚えてしまい、deafheavenは今後自分たちが切り開いた音楽性の地平を歩き続ける、ある種繭ごもりを続けるような音楽を志向し続けるのかと、複雑な気持ちになってしまったことを僕は認めざるを得ない。

“Great Mass of Color”はそんな暗い気持ちをすべて払拭した。そうではなかった。その事実は歓喜の声を呼び起こし、僕の感情をてっぺんにまで押し上げた。これまでの絹のように滑らかでそれでいて鋼のように剛健だったディストーションの壁は反響するナイーブなアルペジオに形を変えた。さらにフレージングはより繊細になり、ギターは甘い青春の追憶のようにメロディを紡ぐ。そして、全てのdeafheaven愛聴者の心を置き去りにしたのが誰も予想だにしなかったであろう、クリーンボーカルである。強靭な喉で獣のようにシャウトを続けたジョージ・クラークは劇的な変貌を遂げ物憂げな感情を歌った。その時点でもう期待値は超えていた、でもやはり思ってしまうのはあの獣のようなスクリームへの心残り。唯一無二と言っていいあの強靭なスクリームを今作では一切排することにしたのだろうか。と不安になったところに、明らかに高揚を始めたギターとリズムセクション。何かが来る!いや、そんなうまいこと行くはずがない、でも期待はしてしまう。

そして来たのだ!夜空に開け放たれた極上のスクリームが!

 

画して僕は『Infinite Granite』がブラックゲイズの新時代を切り開いたことを確信し、静かに涙を流したのであった。

先駆者が先駆者であり続けることの重みを彼らは身をもって示した。それは付け焼き刃ではなく、彼らが持つ本質の音楽性を見つめ、そこから再構築を果たしたからこそ生み出された表裏一体の裏の音像。彼らは裏deafheavenとなり、ここから先はBlackgaze 2.0だ。

 

WRITER

tomohiro

エモを中心に枝葉を伸ばして聴いています。アナログな人間でありたいと思っています。野菜がたくさんのったラーメンが好きです。

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