disc review抑えきれない悲痛は、冷たく鮮やかに視界を覆う
RialaSuis La Lune
“北欧”というと、どんなイメージだろうか。近年、日本においても北欧雑貨が注目されたり、そのどこかニヒルでポップな一面が取り上げられれている場面をしばしば目にする。また、オーロラやフィヨルドなど、雄大で神話的な美しい景色を思い浮かべる人も多いだろう。
そんな北欧という土地において、育ち、独自の美的感覚を洗練させてきた音楽は、北欧神話から出てきたかのように壮大で、美麗であり、冷たく、しかしどこか親しみを禁じ得ない人間味がある。それは例えばChildren Of BodomやDark Tranquillity、あるいはDimmu Borgirのようにメタルというジャンルにメロディックさや荘厳さを持ち込んだり、Jaga Jazzistやsigur rósなど、冷たく、新雪の舞う月夜のようなポストロックとして形を為した。
今回紹介するSuis La Luneにもまた、それらの要素は脈々と流れる。メランコリックで情的ながらも、どこか親しみを覚えるアルペジオとクラシックのような壮大さすら感じるコード進行は、まさに、北欧のお家芸たるもので、感情を煽りに煽った上で、そこに、もはや常時泣いているレベルに悲痛なスクリームボーカルが乗った時にはもはや手遅れ。取り憑かれたように真っ暗な部屋でエモヴァイオレンスを聞き続ける日々の始まりだ。彼らの叫びは、僕たちの言葉にならない暗い感情を代弁して、吐き出しているかのようで、それに依存する快楽の底知れなさというものには、恐怖すら覚える。
彼らは、このアルバムに至るまでは、より激情的で、ポストハードコアというよりはカオティックハードコアに近い音楽性であり、それらがheaven in her armsやkillieのような激情系を好むフリークたちの琴線に触れ、日本でも知名度を高めていた。しかし、今作においては、Topshelfからのリリースであることも影響しているのだろうか、そういった暴力的部分は息を潜め、曲としてのテンポにも落ち着きが現れ、アンサンブルの美しさが際立つ、よりポストロック的なフィーリングを持った作品となっている。その結果、歌詞をより聴かせるスタイルになり、歌詞に宿っていながらも、表出してこなかった悲しみと不定形の暗鬱が姿をあらわすこととなった。
感情的な音圧と生き急ぐテンポ感で焦燥を煽る#1や#9、アルペジオの絡む美しさが印象的な#3、#6も去ることながら、特に素晴らしいのが#4 “Hands Are For Helping”の全編と#10 “One And All, Every Bit”の中盤にわたって聞けるようなギターリフである。もうこれに関しては聞いてくれとしかいうことができない。この辺りで言葉で語ることはやめにして、読者各位の耳に委ねることとしたい。これに琴線が触れた人には、ぜひ続けてVia Fondo、Amaltheaなども聞き込んで、北欧激情の世界観に浸ってみてほしい。
新譜の発売も近づいており、その内容も相変わらず素晴らしく、まだまだ、僕が真っ暗な部屋から出られる日は来ない。
この夏リリースされる新譜から