disc review思い出すのは、むせるような緑の匂い、抜けるような青空
SCENEdeid
東京、下北沢を中心に活動するティーンエイジライクオルタナティブギターロックを展開するバンド、deidの初の全国流通盤。今の多くの歌モノバンド達と同じくして、楽曲から感じるグランジ、オルタナ、ポストコアからの影響はもちろん否定せずに、それらを今の流行りな音像(僕の認識としては、アルペジオや複雑な拍子、展開を用いてテクニカルかつ小綺麗にまとめ上げる形)にアウトプットするのではなく、どこまでもロックチューンな芯の通った太さのある実直な楽曲として歌っているところが好感触だ。
そこから垣間見える音像は、akutagawaやDOIMOIなどハードコア、オルタナの間を行き来するナードサウンドであったり、aieやundersignのような歌の伸びやかさを大切にするメロディックであったり、あるいはShipyards、September Decemberのような90’s エモ直系の青さであったり。そして歌われる歌詞はリスナーめいめいが心に描き、あるいは大切にしまっている青春の青さと若草の匂いをより鮮明なものとし、胸をキューッと締め付ける。彼らの音楽はいつだって夏の入道雲であり、川遊びの冷たい水であり、夕暮れの茜空なのだ。
MVにもなっているアルバムのリードトラック的役割を担う#1 “リバーサイド”から、小鳥の希望ある羽ばたきと空への憧れのような感覚を、夏の匂いのする景色を見下ろす大人の自分の回想と織り混ぜる#2 “slope”、メンバー本人たちも屈指の出来と認めるブループリントなメロディが溢れる#3 “遠くへ”、少し温度感を落とし、日暮れに近づく燻んだ匂いを曲調から匂わせる#5 “合言葉”、#6 “バス停”、うって変わってややポップパンクなフィーリングに近い#7,8、bluebeardやNahtに代表されるようなジャパニーズエモの”あの頃”を想起させるようなアルバムの中でも古株の#10 “acty”と、まさに今のdeidの総まとめ的作品である。
派手でカラフルなものが目につくのは当然であり、そういったものはもてはやされるが、実直な輝きを持ったものはその輝きを失わない。京都のGueなんかと一緒に、ずっといい音楽を作り続けていってほしい。
いい音楽をたくさん聴いてきたからこそ、そこから自然といいものが生まれ落ちている、そういった感覚を聞き手に与えてくれるバンドだ。
リバーサイド
acty