disc reviewベテラン二人の若返りゆるふわラップ
BANANAぱいなっぷるくらぶ
二人組レディース・ポップ・ユニットぱいなっぷるくらぶの1stアルバム。公式HPのプロフィール欄には「Hi, we are Pineapple-club! Nice to meet you! Otomodachi ni natte ne?」という言葉だけが書かれ、不可解な名前と言い一見謎の多いユニットであるが、その正体は、トルネード竜巻の名嘉真祈子とrisetteの常盤ゆうのベテランボーカリスト二人。どちらもメロディアスなバンドで活動していたアーティストであるが、ここでのボーカルスタイルは主にラップ。いい意味でユルい雰囲気を醸しだしまくっているその姿は、ベテランらしからぬ若さを感じさせると同時に、ベテラン故の余裕もまた感じさせる。
結成当初から先行公開されていた#2「すけるとんがーる」では、幽霊になってしまった女子校生をテーマにしたちょっぴり切ないゆるふわなラップが楽しめる。ベテラン二人のそれぞれの活動も知っている身としてはあまりにもゆるいラップ(「あ、足がなーい」なんて間抜けな歌い出しからはじまるのだ)に若干面食らうものの、透明感に溢れたスピリチュアルなトラックもあってかいつの間にかぱいなっぷるくらぶワールドに引き込まれてしまう。#3「Beef or Chiken」は繰り返される「ビーフオアチキン!」の掛け声が楽しい。性急で単調気味なビートと同じフレーズの繰り返しで構成されたトラックは、一種のトランス状態を引き起こす事必至。#4「しんかい」はまさに深海のような揺らめく幻想的な雰囲気の楽曲だが、そこに乗るラップはやっぱりどこかゆるゆる。#8「芭蕉実 -ばなな-」、トロピカルな雰囲気のトラックに乗るは戦国時代の男女のコメディ調のやり取り。「南蛮渡来」という言葉の語感の気持ちよさにここで初めて気付く人も多いだろう。#9「bamboo princess」は竹林を想起させる荘厳なトラックの中で、だんだんとノイズが主張してくる一筋縄ではいかない曲。アウトロも衝撃的だ。#10「WoAiNi」は中華レトロディスコポップといった趣。真剣にディスコ風の曲を作り上げた、というよりはディスコのパロディといった感じでこれまでとは別の脱力感に襲われる。#11「唐船Dooooooi!!!!!!」はなんと沖縄民謡をエレクトロポップに仕上げており、沖縄民謡の持つ能天気さと中毒性をさらに煮詰めたような強烈な享楽性がある。
Charisma.comや水曜日のカンパネラ、Lyrical Schoolなど、真面目でかっこいいトラックに少し気の抜けたラップが乗るスタイルは最近注目度を上げつつあるが、その中でもこの脱力感は相当である。活動はいたってマイペースな様だが、この「ぱいなっぷるくらぶ」という名前はこれからのガールズポップシーンの重要キーワードの一つに成るだろう。要チェック。