disc reviewサイケデリックなのに心地よい、チルウェイヴの世界
Seek MagicMemory Tapes
アメリカはニュージャージー州在住、元Hail SocialのDayve Hawkのソロプロジェクトの1stアルバム。2009年発売のこの1stアルバムが各方面から高い評価を受け、Memory Tapesはチルウェイヴシーンの代表的アーティストの一人として名を連ねるようになった……ということらしいが、筆者自身はこのチルウェイヴというジャンルには疎い。ジャンル外から見た印象を中心としたレビューとなることをお許しいただきたい。
全体的にややサイケデリックな音像をしつつも、チルアウト的な心地よさもあり、低音の利かせ方も素晴らしく踊れる部分もありと、多彩な音楽の要素を少しずつつまみ食いしつつまとめた、という印象を受けた。前半は民族音楽的なアプローチも見られ、「こんな感じでずっと行くのかな」と思っていたところで#5「Stop Talking」に度肝を抜かれた。いきなりダークなリフからはじまり打ち込みのドラムの音もテンポも緊迫感を出してくる。低音もなかなかエグい。しかし7分越えの大曲、ここからさらに緊迫感を上げたかと思いきや、最後には少し明るさが刺す。しかしその明るい部分もよく聞くとめちゃくちゃ怪しい。もうこの曲だけでもこのアルバムを聴く価値は有ると思う。あと#7「Plain Material」はほぼギター一本から始まる歌モノで、こういう要素もあるのかと思わせてくる。後半は楽しげな電子音で踊れそう。総じて、聞き手に「なるほどこんなもんか」と思わせない裏切りと遊び心に満ち溢れたアルバムと言える。しかし、その全てが心地よく、散漫な印象を受けるわけではない。筆者の様にチルウェイヴに明るくない人にも是非、この心地よさと驚きを味わってほしい、そう思えるアルバムであった。