disc review衛星Xから届く、無記名不詳のヒーリングウェイブ

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LP1FKA Twigs

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今年のフジロックにおいて、ホワイトステージのヘッドライナーを努めたことも記憶に新しい、イングランドの女性シンガー、FKA Twigsの初のフルレングス。全曲セルフプロデュースの処女作、”EP1″のリリース時から、既に耳の早いリスナー達の注目を集めてやまなかった彼女は、2013年、The xxSBTRKTの所属するYoung Turksから、Arcaのプロデュースによって、”EP2″ をリリースした。”EP1″にして、既にPortishead的ウェットでダウナーなトリップホップを完成させ、その美的センスは非常に白眉であったが、”EP2″によって、その音楽性のあまりの不定形さ、妖艶さ、異形さから大きな議論を巻き起こした孤高のアブストラクト・アーティスト、Arcaのプロデュースによって、この星を離れた異星のシンガーのような先鋭的で宇宙的佇まいを披露した。

 

その文脈の中で、さらに多くのプロデューサーを迎え、盤石の態勢でリリースされた”LP1″は、アブストラクトな音像を踏まえつつ、よりFKA Twigsの持つ潤いと理知性に溢れた歌声をプッシュするように、美しいメロディがつづられる。初期の頃のようなインストゥルメンタルな空気感は失われたが、ますます彼女の歌は捉えどころがなく、まるで、人間の感性の及ばない、どこか異界で作られた音楽のようだ。バックトラックの先鋭さと、彼女の耳元で囁くかのような吐息交じりのウィスパーボイスとが合わさり、距離感の掴めない、前後不覚に陥るような感覚を我々に与える。それは、彼女の風体から漂う異質さにも助長されており、彼女の独特でオンリーワンな出で立ちもまた、彼女の、楽曲のミステリアスさを醸し出している。

 

重ね合わさる歌声がトリッキーなトラックと縫合し合うオープニングトラックの#1 “Preface”に始まり、不穏な展開の続く前半から、後半でのドラマティックな展開へとつながる構成が美しいArcaプロデュースの#2 “Lights On”、ノーテンポライクに展開するR&B調の#4 “Hours”、#8″Closer”では冷たい海底の洞窟にいるような青くシャープな感覚を与えられる。さらに、”LP1″としての10曲に加え、日本盤ではボーナストラックとして、入手が難しくなりつつある”EP1″の4曲を収録している。

 

現代を我々と同じ歩みで進みながらも、常に3歩先、5歩先の未来から靴音を響かせるFKA Twigs。新世代のシンガーとして、その活動からは目が離せない。

 

 

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