disc reviewスピーカーから穏やかに広がる、だいだい色の陽だまり

tomohiro

LUCKY MECARD

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LOSTAGEのメンバー二人が在籍する、奈良のインディーエモバンド、CARDの2ndフルアルバム。マイルドに鳴らされる透明感のあるギターと優しい歌声が終始穏やかに楽曲を包み込むサウンドは、USインディーの血を脈々と感じる初期から、少しづつその形を変えてきた結果なように思う。前作、”BANQUET”では、Death Cab For Cutieや初期The Velvet Teenのような透明感とギターの鳴りに、日本人独特のフォークソングにも通じるような気だるさが調和し、午睡を誘う優しさがあったが、今作においては、よりダンサブルなアップテンポの曲がその割合を増し、エフェクティブなサウンドも多く取り入れることで、3rd以降のダンスミュージックやエレクトロニクスな要素を取り入れた時期のThe Velvet Teenの流れをひとすくい汲んで加えたようなサウンドへと変化した。
とはいえ、このバンドを聞いて”踊る”かと言われれば、それは違っていて、彼らも醸し出す、強制しないダンサブルさと言うのだろうか、踊らせるために、一緒に踊るために作られた楽曲ではなく、楽曲の向く方向へと形を整えて行った結果、そういった音楽になっていた、という姿勢はとても自然体で、気疲れなく聞くことができるだろう。肉体的に動くというよりは、心が弾むとか、そういった胸が躍る感覚に近い、午後の日差しのような抱擁感をぼくたちに与え、ごく自然に気持ちが軽くなっていくような、そんなひと時を味わえるだろう。また、日本語で綴られる歌詞にも温かみが満ちており、bedClimb The Mindのような素朴なジャパニーズエモの良さを形作る。

 

どの曲のここがいいというよりは、全体を通して流れる空気感の穏やかさ、温かさを味わって欲しいアルバムである。もちろん、特に好きな曲はあるのだが、この曲とこの曲がというような取り上げ方をあまりしたくないというのが正直なところだ。(このサイトの性質上、そこから切り出して音源を紹介することになってしまうのだが。)一度聞き始めれば、すっと生活に馴染んで、#11 “27”が終わる頃には、”おしゃべりの席に用意されていた一山のお菓子が、いつのまにかテーブルから消えていた”時のような、満足感と僅かながらの寂しさを感じるだろう。まさに陽だまりの中にあるような、そんな橙の空間があなたの部屋のスピーカーから穏やかに広がっていく様を、ぜひ感じて欲しい。

 

WRITER

tomohiro

エモを中心に枝葉を伸ばして聴いています。アナログな人間でありたいと思っています。野菜がたくさんのったラーメンが好きです。

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