disc reviewスムースなモダン・スクリーモの発展系が一つ
UninvitedKitsune
だいたい二年前くらいの話なのだけど、こういうコラムを書いたことがあった。Kitsuneという海外のバンド2バンドに焦点を当てた記事だったわけなんだけど。当時djentyなスクリーモをやってたカナダのKitsuneに対して、フロリダのKitsuneはまだ”Empty Vein”という謎にハイクオリティな一曲以外世に出しておらず、その後しばらく動向を追っていたのだけど音源が出る気配もなく、気づいたらそんな存在忘れていたわけで。
で、最近なぜかわからないけど突然思い出したわけなんです。調べてみたらいつのまにかEPを完成させてた!絶対に作る作る詐欺で解散してるってオチとかだと思ってたのに!
そしてそれがなかなかにクオリティ高くてよかったので、ぜひ紹介をしておこうと筆をとったわけである。
最近、Dance Gavin DanceのSwan氏がやってるBlue Swan Recordsとかを中心に、ポストロックとかプログレメタルの意匠を意欲的に取り込んだスクリーモ、ポストハードコアがちょっと流行ってる感じがあって、Blue Swanのバンド達はまとめてSwan-Coreって呼ばれてたり(以前レビューしたHail The Sunとかがそうです。)する。それとは別に、元The Facelessのナイスガイ超絶ドラマーAlex Rudinger氏が今やってるGood Tigerとかにもそういう流れがあったり。
そう言ったハイブリッド・ハードコアとも呼ぶべき流れの中にぶっこんでも引けを取らないグッドメロディをやってるのが今回紹介するKitsune(US)である。てか普通にGood Tigerとかよりいいと思う。
この手のスクリーモってどこに出発点があるのかな。かのレジェンドSaosinのボーカル、Anthony GreenがやってるCirca Surviveが割とその界隈だと引き合いに出されるイメージがあったりもするけど。
これ僕が好きな曲。ちょっと他から浮いた感じの曲なんだけど。
さて、Kitsuneの話。毎回白人がボーカルのバンドを聴いてると、実に艶があって太いハイトーンの伸びが羨ましいなと思ったりするわけだが。そして彼らはそういったボーカルワークに実にアダルトにフレーズを絡めていく。同じジャンルにいてもやっぱりお国柄は出るもので、こういうポストロックフィーリングのバンドだとやっぱりアメリカのバンドがいいと思ってしまうな。そもそもポストロックもアメリカから生まれてるわけだからそりゃそうなのかもしれないけど。
#1 “Uninvited”は先行公開されていた#3 “Empty Vein”と対になるようなクリーントーンとミドルテンポのトラック。コードを鳴らす場所とキメ的に単音を落とし込む場所との平衡感覚が見事で、音圧を損なわず細やかに楽曲を彩る。#2 “Megafauna”はブティック系リバーブを彷彿とさせる煌びやかな鳴りのイントロとそこから続くコードワークの清涼感が素晴らしい。あくまでアダルトに温度感を保ち、ギターも弾き込みすぎず。聞き手の気持ちいいラインを巧妙に把握して音を配置してくる。#4 “Locked Up”はウォームなギターサウンドがジャジーな雰囲気を醸し出し…と見せかけサビでがっつり疾走しまくるのが好ポイントの裏切り。疾走してんのにギターはリバーブかけまくりのクリーントーンでトレモロしたり、クリーントーンでタッピングってのがまたいい。そして、#5 “Okami”ここに来てまさかの日本語だし、Kitsuneなのに曲はOkamiという。この曲は一番界隈のスクリーモっぽい、湿っぽくてクラシカルなコード進行を使っていて、「こういうこともできるぜ」を最後にそっと置いていく感じが食えない。
やはり日本のことが好きでこんなバンド名にしてくれていたりするのだろうか。日本から聴いてるぞとみんなで言ってあげてください。かっこいいぞと。