disc review俗世に別れを告げ、現代の理想郷、南国へ

shijun

Lover LoverSLOW BEACH

release:

place:

日本の五人組インディーポップバンド、SLOW BEACHのミニアルバム。メンバーの内4人が現在はLUCKY TAPESとして活動しているため、実質の前身バンドと言っていいだろう。

LUCKY TAPESはJapanese Soul Pop Bandを標榜し、ソウルやAORの影響を多分に受けた楽曲で、10年代シティポップのスタンダードを塗り替えるバンドの一つとして活躍中である。その前身バンドたるSLOW BEACHには音楽的に通ずる部分がありつつも、一味違ったコンセプトを持っており、これがまた興味深いのである。

SLOW BEACHが標榜していたのは「Tropical Indie Pop」。甘酸っぱいギターポップや、フリーソウルなどの影響を感じさせつつも、燦々と刺す太陽であったり、朝方の波間に宝石のように光る反射であったりといった南国のフレーバー感じられる爽やかな楽曲に仕上がっている。音質はほぼ間違いなく意図的に悪くしているというか、レトロな処理がかけられており、そのアレンジも相まってどこか60~70年代POPSの匂いも。

甘酸っぱいギターフレーズからはじまる日本人好みな王道でハッピーなアノラック#1「Lover Lover」。ハワイアン・ソウルとでも言うべきなのか、優雅な南国風の進行でゆったりとバカンス気分に浸れる#2「Hawaii」。アダルティでレトロなホーン風のシンセとカッティングの絡みが気持ち良いオールドファンクな#4「Motel」。60年代ピアノポップ風のレトロでムーディな仕上がりがリゾート感を醸し出す#6「Surfin’ Today」。

このバンドの持つトロピカル感を形成する物は何か。それは単にハワイやグアムと言った南国の情景だけを切り取ったものでは無く、南国から遠くなはれた地で日常を過ごす者にとっての理想郷としての、憧れとしての南国である。このアルバムは、俗世をしばし離れ優雅な時を謳歌する人々のサウンドトラックである。派手さはないが、ゆったりと心に幸福を与えてくれるサウンド。これを読んでいる貴方が南国に行く予定があるなら、是非とも音楽プレイヤーに忍ばせておいてほしい一枚である。そうでないなら、南国に行けない我々は、SLOW BEACHを聞きながらパイナップルジュースでも飲むとしよう。お買い求めはBandcampで。

WRITER

shijun

ポップな曲と泣ける曲は正義です。female vocalが特に好きです。たまに音楽系のNAVERまとめを作ってます。なんでも食べます。

このライターの記事を読む