disc reviewエモからポップスへと、オルタナティブに駆け抜けた足取りを追って
The Moon Is DownFurther Seems Forever
つい先日、Further Seems Foreverでもボーカルを務めた、ex. Sense FieldのJon Bunchの訃報が報じられた。91年にSense Fieldとして活動を開始し、Sunny Day Real Estate、Texas Is The Reason、Jimmy Eat Worldなどとともに、90’sエモを作り上げ、牽引した生き証人でもあった彼の死は、エモリスナーは認知しておくべきだろう。
こんな前置きになってしまったが、今回はFurther Seems Foreverの2001年リリースの1stアルバムのレビュー。Jon BunchがFurther Seems Foreverでボーカルを務めたのは、2004年から2006年の間であり、レコーディングメンバーとして参加したのは3rdアルバム”Hide Nothing”のみなので、正直直接関係はないのだが、彼の死という一つの出来事をきっかけとして、Further Seems Foreverというバンドについて文字にする機会を得た気がしたので、当時のシーン全体の動きと合わせて、文章にしてみようと思う。
Further Seems Foreverは、98年にフロリダにて結成された、5人組のエモ・バンドだ。彼らが表舞台に立つ頃には、既にエモというジャンルは、前述のバンドたちやThe Get Up KidsやMineral等、90年代前半に結成し、競い合うようにしてライブ活動を行っていたバンドたちによって、とても瑞々しい時期を迎えていたと言えるだろう。それを象徴するかのように、Further Seems Foreverというバンドは1stにして、実に伸びやかで、透明感とサッドネスを持ち合わせたエモという音を鳴らしていた。しかし、2001年は、Jimmy Eat Worldの4thアルバムにして、出世作となった”Bleed American” や、Sense Fieldの4thアルバム”Tonight and Forever”など、ポップネスやパンク感を強く打ち出したエモが大衆へと供給されていた時代だ。彼らのような、どこかWeezerのようなルーザー的香りをまとった湿っぽいバンドは、メインストリームからどういう評価を受けたのだろうか。そんな彼らの1stアルバムの代表曲といえば、やはり、#1 “The Moon Is Down”だろうか。
Mineralのような初期衝動的疾走感と、Sunny Day Real Estateのようなポストハードコアからの流れを汲んだようなオルタナティブな要素が同居する、名曲だと思う。
一方でSense FieldやJimmy Eat Worldは
こういった音楽をやっていた時期だ。
彼らの1stは非常に繊細さが宿った作品であり、#3 “Snowbirds And Townies”などは曲名の通り、白雪に覆われていく街の静かな冷たさを感じられる冷たさがあるし、一方で#5 “Madison Prep”、#8 “Pictures of Shorelines”のようなストリートソングも書ける。いずれも象徴的なのはアルペジオや単音弾きでよく歌うギターのフレーズであり、こういったストレッチ具合は、彼らの前身であるハードコアバンド、Strongarmで培った力だろう。この作品のレコーディングののち、初代ボーカル、Chris Carrabbaは自身のソロプロジェクトへ身を投じるべく脱退、2代目のボーカルを迎えてリリースされたのが、2ndアルバム、”How To Start a Fire” だ。この作品ではよりインディーロックっぽいアプローチに挑戦したり、ファーストよりヘヴィでスクリーモライクなサウンドの曲が増えたり、楽器隊のより一層のエネルギッシュさが感じられるだろう。
ジャケットの変わりようもなかなかおもしろい。しかし、このボーカルも彼らと合わなかったのか、この一枚のみでバンドを去っている。そうして、次のボーカリストとして、白羽の矢が立ったのが、2003年にSense Fieldを解散した、Jon Bunchだったわけだ。既にエモという殻脱ぎ捨て、インディーロックの香りを感じるポップスとして活動していたJonの歌声に期待を抱いたのかもしれない。
こうしてようやく冒頭に戻り、3rdアルバム”Hide Nothing”へと至るわけだ。
キャリアを積む中で様々なジャンルへの挑戦を続けてきた楽器陣と、男らしく、伸びのあるJonのボーカルは見事にマッチし、決してポップになりすぎない、絶妙なラインのロックミュージックを完成させた。こうして、Jonは解散までをこのバンドとともにした。Further Seems Foreverはその後、初代ボーカルを再び迎え再結成。現在も活動を続けている。1stのレビューと言いながら、バンドの流れを追ったような記事になってしまったが、たまには面白かったかと思う。エモに生まれたバンドがどういった道筋をたどっていくのかを記事を書きながら追うことができて、個人的にも楽しい記事になった。ジャケットが、エモ→スクリーモ/ニュースクール→ポップスといった風にバンドスタイルを映して変わっていくのも見所だった。