disc reviewさらに伸びやかに、さらに直情的に
tribute to… - EP三上ちさこ
fra-foaの元ボーカル、三上ちさこの2012年リリースのソロ音源。過去にはメジャーレーベルにも所属していた彼女だが、今作はレーベルを通さず自主制作と言う形でのリリースとなった。ライブ活動こそ続けていたものの、音源自体はなんと7年ぶりということもあり、長く待たされたファンも多かったのではないだろうか。fra-foa時代は轟音サウンドをバックに激情を振り絞っていた彼女だが、7年ぶりの音源と言うことでさすがに肩の力も抜け……ということは無く、エネルギッシュな歌唱は相変わらずである。ソロ音源と言うことで音楽性はバンドの縛りからは抜け出し音楽性は多様であるが。fra-foa時代の楽曲のセルフカバーも収録されている。
ダンサブルかつスペーシーな電子音から始まる#1「アザミノ」。三上ちさこのエネルギーに満ち溢れた歌声とアップテンポで底抜けに開けた空気の楽曲とはなかなか好相性。展開のフックとも言えるギターソロ部分にも注目。楽し気な子供の喋り声から始まるも、全体的な雰囲気はぐっとネガティブに転じる#2「life」。fra-foa時代にもたびたび見せた、泣きながら振り絞るような歌唱が堪能でき、盛り上がるポイントでは轟音ギターも飛び出す。振り絞るような歌唱の中にも伸びやかさが生まれているのも見どころで、リスナーにとっては空白とも言えた7年間にも三上ちさこは確実に成長していたことが伺える。#3はfra-foa時代の名曲「澄み渡る空、その向こうに僕が見たもの。」のセルフカバー。アレンジはギターなど全体的にテンションが高くなっていたり、シンセが加えられたりしてはいるものの、基本的には原曲に忠実なのが意外か。初期衝動の塊のような楽曲にも関わらず、三上ちさこの激情はさらに深化しており、原曲以上の衝動を感じることができるのは不思議としか言いようがない。#4「walless」はピアノメインのバラードで、三上ちさこの力強く伸びやかな歌声を十分に堪能することができる。
ソロ音源ということで当たり前と言えば当たり前だが、バンド時代以上に三上ちさこの歌の持つ力を感じる1枚に仕上がっている。前向きでエネルギッシュな歌唱から、胸を締め付けるような切ない歌唱まで、現在の三上ちさこの歌声をあらゆる角度で堪能できる。#3が敢えて原曲に近いアレンジになっているのも、彼女の現在の姿と過去の姿が容易に対比できるように、衝動を失わずして伸びやかさを手に入れた彼女の現在の証明のため、とも言えるのではないだろうか。現時点ではこのアルバム以降音源のリリースはないが、彼女のブログなどを見るに今でも彼女は音楽に向かっている。彼女の音楽への愛はまだまだ衰えることを知らないようだ。更なる便りに期待しよう。