disc reviewウェットなエモーションを掻き立てる、ポップパンク由来のオルタナアルバム

shijun

CRIMSON SQUARESHAKALABBITS

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SHAKALABBITS2005年発売の3rdアルバム。スカパンクバンドとしてデビューした彼女たち。ちょうど2000年代初頭の青春パンク、スカブームの波に乗っかり(175Rとのコラボシングルも経て)大ブレイクを果たしたのが前作「CLUTCH」であった。しかし、続く今作は、そう言った楽しく明るいスカパンク要素はやや減退し、ぐっとシリアスなオルタナ方向に舵を切ったアルバムに成っている。

バイオリンのイントロ曲「call」から続くように始まる#2Parade」は彼女たちらしいアップテンポなパンクナンバー。だがスローめなサビやシリアスムードに湿ったボーカルからは彼女たちのパブリックイメージからは離れた、今作ならではの方向性を感じることができる。#3BEAN STALK」も分かりやすく青春パンク寄りなアレンジだが、メロディラインは複雑。シングル曲#4SADISTIC AURORA SHOW」は切れ味鋭くヘヴィなリフに、ゴリゴリのスラップベース、加工ボーカルのラップ調のパートと彼女たちの(当時の)新機軸と言うべきオルタナナンバー。シリアスなムードだからこそ、メロディアスなBメロ以降のポップさも映える。ハードロック風のギターが随所で光る#5piece of cake」。続くシングル曲#6Ladybug」は、シンプルな展開を積み重ねて徐々にエモーショナルになっていく展開が美しいミドルテンポなナンバー。ギターの音像もぐっとUKオルタナやジャパニーズギターロックよりになり、アコースティックギターの乾いた音色が湿り気たっぷりのUKIの歌声と良いコントラストを生んでいる。すでにパンクロックの範疇で語れなくなっている彼女たちを表すこのアルバムの象徴的な楽曲の一つだ。

切ないアルペジオに乗せてしっとりと歌い上げる#7「カレイドスコープ」は、続くエモーショナルなロックナンバー#8kaleidscope eyes」との続き物。しっとりした#7から一気にアップテンポな#8になだれ込む展開がお見事。#8は前作の『「ポビーとディンガン」』にも似た16ビートのドラムにエモーショナルなギターが乗る楽曲だが、明るく楽しげな『「ポビーとディンガン」』とは違い全体としてシリアスムードなのはやはり新境地。最後は#7に似た展開に戻るのも美しい。#10mommy’s back」は明るいポップパンクだが、やはりギターの音色は乾いておりオルタナギターロック的アプローチも感じられる。サビメロが素晴らしい。#11「人魚のうた」は#7以上にしっとりしたバラード。海を思わせるSEやストリングスも主張する壮大で美しいナンバーになっている。ラスサビはギターも存在感を増し、そこはロックバンドだなと思わせるが。さらにつながるように流れ込む#12RIGEL」はthe brilliant greenあたりを彷彿とさせるかなり暗めのオルタナナンバー。SHAKALABBITSのイメージからはかなり離れた楽曲だがしっかりモノにしている。ひたすらに渋く暗いギターソロがまた良い。アルバムの流れ的に美しい「人魚のうた」から最後明るめのパンクで締めればそれで平和なアルバムになったであろうに、こんな爆弾を放り込んでくる当時のSHAKALABBITSは本当に一筋縄ではいかない。続く#13BYAM.」で彼女たちらしい青春パンクを聞かせ、#14morning」では同じく彼女たちらしいハッピーめなスカ、ファンクであるが、「RIGEL」の後だからこそ意味合いも変わってくる。

全編非常にシリアスな雰囲気になっており、前作までとのモードの違いが感じられる作品になっている。前作の流れを引き継いでいたシングル「GOSKIP IT」の楽曲が一切収録されていないこともその証明の一つだろう。それ以降もまた少し違ったモードに入っていくため、SHAKALABBITSのファンの中でもそれほど評価の高いアルバムではないようだが、個人的には最高傑作に推したい。「パンクはちょっと……。」という人にも是非聞いてもらいたいアルバムだ。

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shijun

ポップな曲と泣ける曲は正義です。female vocalが特に好きです。たまに音楽系のNAVERまとめを作ってます。なんでも食べます。

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