disc review俗世でもがく感情、綴る地下室

shijun

BASEMENT DIARY岡北有由

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Radioheadなどのオルタナティブロックバンドに影響を受けた楽曲と、岡北の気だるい歌唱で綴られる、安息と怠惰の境界線に立つかのようにゆったりとした音楽。そして、強烈なインパクトには欠けるのに、なぜか人を惹きつける音楽。それは岡北有由という人間の生き様自体が、あまりにあからさまに、輪郭を思い描けるほどに、彼女の音楽ににじみ出ているからに違いないだろう。BASEMENT DIARY、このアルバムは地下室で苦悩と戦い続ける彼女の日記なのかもしれない。

#1「ほんとのもの」、始まりを予感させる曲調ながら、岡北は現状を嘆くように文句を吐き続ける。サビでは錯乱したようなメロディも聞け、ネガティヴ故のエキゾチックな美しさを振りまいてくる。性質としては椎名林檎やCoccoに近いのかもしれないが、林檎ほど強くもないしCoccoほど浮世離れもしていない。俗臭く俗世の中で悩み続けるようなリアリズムは、アーティストとしては若干武装不足だったのかとさえ思う。それはアルバム全体を通して言えることである。

先行シングル群の一つである#4「灰色ラブソング」は愛が重すぎるが故に苦しむ心情を時にグランジ風の重苦しいギターも混ぜながら気だるく歌い上げる曲。#9「1+1の分離」は軽快な曲調に言葉遊び中心の歌詞が一見楽しいが、テーマは別れであり岡北はやはり自暴気味に嘆き続けるのである。嘆いてばかりではない。#3「そこには」、#5「ハート タイムトリップ」などは自己嫌悪を下敷きにしつつも「あなたと出会えて幸せ」という感情を朧げながら確かに歌っている。

ネガティヴもそんな中にある救いも、リアルな言葉で吐き出し続けるこのアルバムの総括とも言えそうなのが#10「わたし」。幼稚園がどうとかいう話までも持ち出しての自己紹介ソングで、愛おしいほど人間味に溢れた歌詞を淡々と、しかしエモーショナルに歌い上げる。そしてその全てをひとまず肯定する#11「いいよ」につながっていく。

暗い曲を売りにする女性アーティストは、正直言えば星の数ほどいる。しかし、そう言ったアーティストの曲は、一見むき出しなように見えても、何かしらの誇張や計算が含まれていることが多いだろう。それは別に悪いことではない。悪いことではないが、だからこそ、こういうむき出しな音楽にも陽が当たるべきではないだろうか。いや、もしくはこれも日記という枠組みのアルバムにおける計算なんだろうか。

WRITER

shijun

ポップな曲と泣ける曲は正義です。female vocalが特に好きです。たまに音楽系のNAVERまとめを作ってます。なんでも食べます。

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