disc review朝、静かに息を始める街を、二編の詩で紡ぐ

tomohiro

最後のうた / 朝ベランダ

release:

place:

朝もやの漂う、まだ空気の冷たい青白い、そんなどこかにある街の早朝。そういう情景が思い浮かぶ歌だ。朝の早い家の窓には灯りがともり、ぽつりぽつりと朝食の支度が音になって聞こえてくるように、少しずつ色がついていくようにして、音は重なっていく。たびたび挿入される耳触りの良いアルペジオフレーズが、カメラのシャッターのように、描きだされる風景を一枚一枚、写し、切り出していく。また綴られる詞も非常に印象的だ。天邪鬼な言葉遊びを繰り返しながら、隣にいるようにも感じられる二人の、つながることはない心地よい距離感が描き出されていく。君と僕の歌である以上、この歌もまた、ラブソングと言えるのだろうが、ラブソングというには、描かれる温度感が低く、その淡々とした様が、”最後のうた”として訪れる、別れを予見させる。歌を最後まで聞いて初めて、何にとっての「最後の」うたなのか気付かされる物語性、そして、その後の変わりない日常を感じさせるようにして再び挿入されるメインのアルペジオフレーズ。実にストーリ性が高く、緻密な楽曲だ。

 

今回のレビューは、京都のオルタナティヴロックバンド、ベランダの2枚目の自主音源だ。2曲入りシングルというスマートな一枚だが、その2曲に凝縮されたベランダという音楽はとてもとても、濃厚で、10分と少しの間で、深く、沈み込むようにして彼らの描き出す、”街”の風景へと思考は馴染む。

“最後のうた”を終えての#2 “朝”は、この流れで聞くと、別れを終えた後の、淡々と続く日常を描いた後日談を歌った歌のようにも感じられる。「なんとなしにも日々は回って」と歌うのは、日々を過ごしているというより、日々が過ぎていくような、そんな他人事のような感覚を感じるからで、そんなどこか気の抜けた、身の入らない日常を、6分超の低体温の楽曲でうまく表現している。

 

前作の音源では、カントリー調の軽快な疾走感が気持ちいい、”どこまでも”のような楽曲もあったが、あくまでも彼らが得意としているのは、ミドル〜スローテンポの楽曲で、Gt/Vo. の高島の描く詞は、そんなじんわり効いてくる楽曲によく馴染む。

くるりサニーデイサービス、あるいはもっと遡るのであればはっぴいえんど。日本語詞で魅力的な世界を構築してきた、フォーク、あるいはポストフォーク世代のバンドの魅力を、今現在、2016年に凝縮し、発信しているベランダというバンド。これからの活躍もますます楽しみだ。

 

現在、RO69JACK入賞までこぎつけ、現在も選考は続いている。彼らがもっと多くの人に知られる大きな舞台に登るのは、そう遠くない未来なのかもしれない。

WRITER

tomohiro

エモを中心に枝葉を伸ばして聴いています。アナログな人間でありたいと思っています。野菜がたくさんのったラーメンが好きです。

このライターの記事を読む